Change the Destiny エピソード3.5/Break the Wall 第1.5集 追い詰められた希望(小野哲)  作者まえがき  我が盟友の作品復帰に備え、過去編を前から構想していました。  そして今回過去編と繰り出す事にしたのがこの話です。ただ、旧ブログで盛り込んだ話も若干編集して加えています。当然ですが我が盟友とも連携を強化しています。  1 静かな悪夢の始まり  「ということでしたか…」  「ああ、この前の事件で黄色い馬が動いている。販売ルートについては捜査しているだろう」  厳しい表情で二人の男性が話しあう。  長身の男は高野広志であり、白衣を纏った男は広志の主治医の一人でアジア戦争の時からの戦友でもある真東輝である。ここは新宿のヴァルハラ東京総合病院内…。  「そうですね、ですが詳細はまだ分かりかねますので、判明次第追って報告しましょう。真東先生、診察の合間にすみません」  「いや,俺は慣れているさ」  淡々と話す輝。その時、看護師が現れる。  「患者さんが到着しました。健康診断をお願いできますか」  「ああ、ここに通してくれないか」  「ここから引き上げましょうか」  「いや、ヒロと会わせていいと思う。そのまま案内してくれないか」  輝は言う。彼の作業机の上には持ち運びできる写真盾があり、妻の綾乃、長男の輝広、長女の広乃と実の母親である海清、叔母で輝の育ての親である蓑輪夫妻が写っている。ちなみに輝広と広乃の出産に広志は関わっており、そのことへの恩義を忘れないためにも輝は広志の名前から広の一文字をもらってそれぞれの子供に命名していた。  青年を先頭に中学生から小学生までの子供たちが入ってくる。  「ケビン(・ゼッターランド久坂)先生の紹介でここまで着ました。すみません」  「今回担当の真東です」  そのときだ、金髪の青年達が頭を抱えて倒れこむ。驚く広志。  「おい、どうしたんだ!」  「ヒロ、彼らはヒロと同じデザイナーズチルドレンなんだ。うち三人はキラーチルドレン(殺人兵器として遺伝子レベルから組み替えられた人間であり、更に選ばれたメンバーがマスター・コントロール・ユニット)として育てられるところだった。そこを助け出して一般人として育てているんだ」  「そうだったのか…。辛かったな…」  「ミリカ、大丈夫か!?」  「私は大丈夫よ、駿太」  黒髪の少年が金髪の少女を抱きかかえる。広志は二人の強い絆に微笑を浮かべる。  「すまなかったな、私の持つ特質で君たちを苦しめてしまって…」  「いえ、俺はあなたと出会えてうれしいです。ケビン先生や真東先生からあなたの話は聞いています」  金髪の青年が広志に握手を求める。  「彼はラジアル・ランパートというんだ。今は科学アカデミアの医学部4年生だ」  「君は優秀だな。私など劣等生でね」  「何を言うんですか、あのエール大学大学院を卒業したエリートに似合わぬ謙遜さじゃないですか」  「あれは偶然さ。幸運に恵まれただけで、君みたいな才能など私などにはないんだよ」  「永井さんからも話は聞いています」  「永井?果たして…」  「この人ですよ」  ラジアルが取り出した運転免許書入れの写真に広志は驚いた。  「ああ、仁清さんね。ご令嬢の夕菜ちゃんと付き合っていると言うことか」  「そうですね。駿太の奴、怖がっていますよ」  「ラジアルの兄貴、顔が怖いんだよ」  「しょうもない。風貌で戸惑うのも無理はない」  「駿太ったらそれに加えて蛇が苦手なんですから」  「蛇が苦手か…。君は彼女に弱みを握られているな。私は苦手なのはオバケだね、この年になってもだ」  広志は優しそうな表情で速瀬駿太を眺める。駿太は世界的な自動車研究者で知られるペッカー速瀬の養子の一人で、同じ境遇にいるラジアル・ミリカ兄妹、ピキと一緒に生活している。今はラジアルが科学アカデミアに下宿している為、駿太が中心になっている。彼らはエンジェル・ハイロウ学園に通っている。  「レイトン、お前ヒロさんに会いたがっていただろ」  「まあな。憧れていたからね」  「君の夢がひとつ、叶ったな」  広志は金髪の少年と握手を交わす。レイトン・イグナシオスは鼻をいじりながら笑う。  「俺、今度イムソムニアに埋め込まれたマスターコントロールユニットを取り出すことになったんだ。ティナとアクセルは終わったけど、俺は遅くて辛かった…」  「そうか…。あれはひどいものだったな。君達を戦争の楔に縛り付け、絶対服従させるだけの非人道そのもののシステムだった。すまない…」  「そんなシステムから俺達を救ってくれたのが駿太とピキ、ラジアル、ミリカだった。あんたがイムソムニアとシャドーアライアンスを倒してくれて、機械の悪夢から解き放たれたけれどね」  黒髪の少年がいう。彼はアクセル・ホロンである。  「それで、コイツとピキが恋仲なんでね」  「もぅ、すぐそう繋げるなんて。駿太とミリカに比べたらまだまだよ」  ショートカットの美少女がレイトンに文句をいう。ティナ・バーンズといい、警察軍所属のアレックス・バーンズ大佐(十年前は少尉)の養子である。ちなみにレイトンはあの大野リジェとも顔見知りである。渋い表情で駿太が文句を言う。  「俺達の話にすぐ結び付けるなんて、ティナったらワンパターンだぜ」  「まあ、それもひとつだ、駿太」  「君達はゼネラルアックスからどれぐらいの損害賠償を受けた?」  「申し出はあったけど、オペ以外は…」  駿太がいう。ゼネラルアックスがアジア戦争の原因となった資源の争奪を世界中で行った。しかも、アメリカ合衆国がバックに控えていた。手段を選ばない強引さに反発した市民に目をつけた科学秘密結社・イムソムニアは傘下の軍事部門・シャドーアライアンスを使って軍事面でサポートし、戦争が始まった。  デザイナーズチルドレンの技術はゼネラルアックスがハバート機関と共同でアラスカに保有していた。その両機関をイムソムニアは奇襲、技術を奪い取ると核融合発電実験プラントを破壊した。そして、それと同時に東南アジアで反米主義を掲げるゲリラが宣戦布告した。それが、シャドーアライアンスだったのだ。その彼らが宇宙からのオーバーテクノロジーであるテックシステムをマスターした結果、戦乱は更に悪化した。  広志は警察軍大学付属高校に通う高校生だったが、テックシステムを保有していた事が分かりテッカマンアトランティスとして虚無の戦争に挑み、そして生死の危機を乗り越えてアジア戦争を終結に導いた。  「相羽君、検査結果は」  「ここにあります」  白衣を纏った青年が入ってくる。新人外科医で輝の下で指導を受けている相羽英男である。実は彼が医者になろうとしたきっかけは同級生で今の妻である胡桃が高校時代に白血病になり、輝の奔走で骨髄による移植で克服できた事からだった。それに恩義を感じた英男は輝に憧れて外科医になる事を決心し、学生結婚して今は新人としてこの病院に働いている。ちなみに胡桃は妊娠二ヶ月である。  陣内隆一が朗らかな笑みを浮かべて入ってくる。  「高野CEO、事情聴取が終わりましたわ、ほな行きましょか」  「ああ…。君たちとまた会おう」  「ええ、俺たちも」  だが駿太とミリカ、ラジアルは再び広志と会う事になる…。  「CEO、恩田の坊っちゃんはホンマに大丈夫でっしゃろうか…」  「陣内も不安そうだな」  広志と陣内が雑談を交わしていた。  恩田ヒロミツは麻薬『黄色い馬』を服用していた事を土下座で詫びた。それを陣内は止めたのだが、広志は理解を示し、慰めたのだった。  「しかし、人は人生に深い負い目を背負えば、土下座してでも傷の現実から逃げようとする。かつての私もそうだった。陣内もそうだっただろう」  「あのオーブの国兄もそんな過去を背負っておらっしゃったとは…」  「声が大きいだけではリーダーにはなれないものさ。私は本来鏡になるべきが剣になっただけで、本来は陣内のような心優しい人間がリーダーであるべきだ」  「何を言うんでしゃろか。高野CEOあってのGINやないですか」  「所詮偶然だ。君達あってのGINだからだ。その代弁者に過ぎないのが私だ」  広志は渋い表情で写真を眺める。その時だ。  「あの、GINの高野広志CEOですか」  「如何にもそうだが…」  ロングヘアの女性とボブカットの女性が笑っている。  「私、東西新聞社の松永みかげといいます。山岡さんから話を伺っています」  「取材か…。いきなりオフレコとは困ったな…」  「そこを何とかお願いできますか。私の恩師の弟さんも黄色い馬中毒です。GINが捜査している事は承知です。ケビン先生の推薦状もあります」  「なるほど…。分かった、できる範囲でだ。まず、捜査はしているが、詳細は話せない。マフィア絡みの犯罪だからだ」  「マネーロンダリングも絡んでいるというのですか」  ボブカットの女性が突っ込む。彼女はみかげの姉であるさとみだ。  「そういう事だ。これ以上関わると君達の命は保証できない。みかげさん、松坂先生に加えて私の人脈が欲しいのかい。ドルネロから話は聞いていたがここまで踏み込むとはたいしたものだね…」  「アジア戦争の時、私達は14歳だったんです。壁新聞であなたの事を…」  「面会できなかったのはすまない。せっかくだ、あの時の戦いをつまみに雑談でもしようか。カフェ・リンドバーグがあるのだからな」  「あんたら、双子の姉妹やな…。まあ、案内しまひょ。なんでわいらにこだわるんよ」  「陣内さんの奥さんが私の先輩だからです。どうしてもお願いできますか」  さとみは横浜学院大学出身で、その短期大学からハーバード大学に進学したのが綾野美奈子、そう、陣内の妻である。それでさとみは陣内に興味を持って取材を重ねていたのだ。渋い表情で陣内がぼやく。  「オフレコは苦手なんや…。勘弁せえへんかい…」  「陣内、そのために我々は機密事項で情報を保護できるではないか」  悠々とした態度で広志は三人に動くよう促す。  「まず、座ってくれないか」  カフェ・リンドバーク新宿店…。  「ここは光が差していて綺麗ですね…」  「ここは私の知り合いが関わっている。だが、公私混同でここを選んだのではない。ムーンバックスならばそちらを選んでいた」  「そうですよね、結構合理性に強いって山岡先輩から話は聞いていました」  「アポなしを装って実は計画的だったな」  広志は苦笑いしながらオーダーを見る。  「君達はどうする?」  「モカにします。あなたは…」  「いつもブラックだな。さすがに贅沢すぎなのは苦手なのでブルーマウンテンにはしないが」  「確か高校時代からずっと…」  「そうだ、ブラックにしているのはその時からだ。あのクリスマス近くのエピソードを思い出す…」  広志は写真を取り出す。みかげが戸惑いながら聞く。  「この人って、確か…」  「でも、葉村悠里って人じゃ…」  「さとみさん、違うさ、この人は浅見竜也の妻になった仲田遊里だよ。葉村って言えばあの朝倉啓太首相の首相秘書官を務めているヤングエグゼクティブだがな」  「確か、奥さんのミチルさんと神式結婚式を挙げたそうですね」  「そうだ、君の言うとおりだ。彼は私よりも出来る男だ」  「何を言うんですか、あのエール大学大学院を首席で卒業したトップクラスのあなたに似合わない謙虚じゃないですか」  「私よりも出来る人は多くいる。君達は私を買いかぶり過ぎだ。世の中には私を凌駕する才能がたくさんあるが、彼らは見出される機会がないだけだ。私は彼らの礎になりたいだけさ」  10年前の川崎・警察軍基地…。  「あの二人、動きがないのよ…」  ショートヘアの女性が広志に話しかける。彼女は四宮蓮の弟・慧の婚約者の佐野令以子である。広志は呆れた表情で話す。  「輝先生と綾乃さんはスローペースですよ、煽っても仕方がないじゃないですか。交際しているだけでも万々歳じゃないですか」  「あの二人に決断を促すって言うのはどう?」  「悪くはないけど…」  広志はブラックコーヒーを口にしながら思わず口篭もった。煽るのでは問題は解決できないのだ。巨漢の男が令以子に突っ込むかのように話す。  「そうか、おめぇはあの二人が結ばれる事を望んでいるってわけか…」  「誰か知っているんですか」  「ヒロの話から分かっているぜ。まあ、俺が動いてやる。取引先による懇談会も兼ねて入院患者向けのクリスマスパーティを病院でやるって言うのはどうだ」  広志はドン・ドルネロの提案に思わず驚く。ドケチで知られる彼がなぜこんな行動に出るのか。  「節約上手のドルネロが何故」  「損して得取れって言うじゃねぇか。おめぇも分かっているぜ」  ドルネロはヴァルハラに海外の医療機器企業を買収した関係で納品が非常に多い。その事もあるのだ。  「ついでにだ。私もお得意のマジックでも披露しようか」  「ドクター・ミーメイ降臨ですか」  「まあな。悪い事を繰り返したら罰されるという教訓を教えておけば子供達も悪い事はしないよ」  片岡貢は笑いながら広志に言う。貢のマジシャンの師匠はあの小津勇、広志の親友である魁の父親である。そのときだ。  「ビーッ、ビーッ!!」  「東京湾にラダム兵奇襲か…」  「ヒロさん!」  広志の控え室に飛び込んできた少年。彼はオーブから警察軍の応援に入っているシン・アスカである。彼の義理の兄であるキラ・ヤマトオーブ王太子の要請で警察軍に派遣されていたのだ。  「シン、君の力を貸してくれ!」  「ええ、ダイゴさんもケイゴさんもスタンバイしています。兄上もヒロさんに力を貸してくれって頼んでいますから!!」  広志たちはテロリスト集団・イムソムニア及びシャドーアライアンスと戦っていた。宇宙からのオーバーテクノロジーを悪用して世界支配を目論む彼らと戦い続ける毎日だったのだ。争いごとを好まないドルネロが苦い表情をする。  「また戦争かよ…。仕事柄とは言えども嫌になってくるぜ…」  「やるしかないんです、行くぞ!」  広志はネオクリスタルを握り締めると立ち上がる。  「行くぞ、みんな!」  広志の号令と同時にシン(ディスティニー)、円ダイゴ(ティガ)、正木ケイゴ(ライジング)がフォーメーションに入る。  「イムソムニアの手下どもめ、オーブを滅茶苦茶にしやがって…!!」  「気をつけるんだ、シン!」  血の気の多い硬骨漢であるシンを戒めるのはダイゴだ。ケイゴが続ける。  「ラダム兵とキラーチルドレン、マスターコントロールユニットは我々に任せるんだ!」  「ヒロさんはアイツを撃退することに専念してください!」  「すまん、行くぞ!!」  20本の純白の翼を雄々しく広げると向かうべき好敵手の前に広志は向かう。  「キアス・ベアード!」  「アトランティス!貴様を倒す!!」  「ためらって人の命を失うくらいなら、罪を抱えてでもこの手で戦いを止める!!」  20本の翼を大きく展開させると、エクスカリバーを引き抜く。プルートゥもランサーを構えると両者は鋭く交差する。たちまち光速の戦闘が始まる。その戦いは熾烈そのもの、火花が四方八方に散る猛烈なものだった。  「宿命に拘束された貴様が!」  「憎悪にとらわれたお前に負けてたまるか!!」  その光景を本部のモニターで見ている少年…。 ――――俺達はヒロにおんぶに抱っこなのか…!!  「睦月、どうしたの?」  「いや、なんでもない、望美」    「キアス・ベアード!!」  「貴様とは戦うことでしか分かり合えまい!」  広志対キアスの激闘は終わることもない。  エクスカリバーとランサーが火花を散らしている。すでにダイゴ、ケイゴ、シンの3人がラダム兵を撃墜しているのだが、プルートゥはその3人が束になってもかなわないほど強いのだ。広志は自身に託された力でキアスに立ち向かう。  「くっ…」  「これじゃ消耗戦じゃないですか!」  シンがケイゴに話す。  「承知だ、シン。しかし、彼はそれを承知で戦っている。有利なのは彼だ。戦い続けることしか彼には出来ない。そうするしか人々を救えないということを知っているからな…」  広志は咆哮しながらプルートゥに襲いかかる。  「俺と貴様は血を分けた兄弟のようなもの、だが分かり合えないなら貴様を撃つ!」  「お前は俺の兄弟ではない、邪悪な悪魔だ!憎しみしか語らぬお前が!!」  広志は猛攻を仕掛ける。激しい怒りをぶつけ、戦いはヒートアップしていく。そして広志の一撃がキアスの肩を直撃する。  「成長したな…。今日の戦いはここまでだ!」  「待て!!」  シンが叫ぶ。しかし、キアスは引き上げていく。  「ヒロ!」  「はぁはぁ…」  広志は激しく息を付いている。以前と比較すると明らかに広志はおかしい。体調が不安定になっているのだ。  「ハァハァ…」  激しく喘ぐ広志が診察室に運び込まれる。  「ヒロ…」  「何か悪い予感がする…」  蓮と輝は厳しい表情で診察に入る。  「こんなに喘ぐような呼吸…。お前は大丈夫なのか」  「大丈夫、じっくり休めば元に戻ります」  広志は冷静に話す。だが蓮は不安な表情で言う。一人でなんでも抱え込んでしまう広志の性格を知っていたからだ。そして無理してこなそうとしてうまく取り繕えるのだが、それが破綻してしまうことを懸念していたのだった。  「お前一人で戦っているわけじゃないんだ。アトラスになるな」  「そうだよ、ヒロはもっとみんなに苦しいことを打ち明けてもいいじゃないか」  「上城…」  浅見竜也は複雑な表情で広志を見ていた。2日前、広志が意識を失って倒れた際竜也がフォローしたものの、広志は箝口令を敷いた。  「竜也、どうしたの」  「いや、何でもない」  仲田遊里(竜也と恋仲にある)に話すと竜也は部屋に戻った。 ----ヒロ…、お前はどうしてここまで無理を重ねる…!!何故そこまで力にこだわろうとするんだ…!!  「ヒロのことか?」  「直人」  「あいつも、俺と同じだろう。力で一人でも多くの人を救おうとこだわるあまり無理を重ねているんだ」  「私たちも見ていたわよ、ヒロが倒れるところを」  「直人、リラ…」  「お前も辛いな…。あいつの苦しみを慰められずに…」  「俺も、力が欲しい…。ヒロの戦いを支えられるだけの力が…!!」  無力感に竜也はやるせない表情を浮かべる。滝沢直人は厳しい表情で話す。  「ヒロはお前のような仲間がいるのに、孤独なのだろうな…。辛さが分かってもらえない辛さか…」  「そうだろう、僕も良く分かる。だが、ここはヒロを信じて待とう。きっと彼は話してくれるさ」  ミミズク型のロボットがしゃべりだす。タックといい、竜也たちのサポートを引き受けるほかナビゲートを担当する。しかも、飛行能力がある他高性能のコンピュータが搭載されており、カメラによる分析機能もある。金城リラがタックを抱えながら話す。  「そうね…」  「だが、力だけでも、絆だけでも生きられない…」  「そこを何とか乗り切るのが、それぞれの個性なんだ。直人の信念と竜也の明るさ、リラの現実を見る鋭さなどがあって初めて僕らは成り立つんだ。竜也は金には甘い性格だろう、そこをリラが締めている。直人は竜也の甘い攻撃をカバーする力がある。だけど、リラや直人にはない優しさを竜也は持っているんだ」  「みんなで支え合う…。いい言葉ね…」  「そういうことか…」  「ああ、魁に協力して欲しいんだ。慧先生もやる気満々だそうだ」  「あの人、佐野さんの言いなりだもんな…。しかも蓮先生『もっとやれ』と煽る始末だもんな…」  「君たちは世話焼きだな…」  タックが呆れた声で言う。だが、竜也が言う。  「輝先生、あれだけ頑張っているんだから少しは報われないとな…」  「そうね、じゃあ買い物担当で、クリスタル広場にあるお店でお菓子でも頼まなくちゃ」  「遊里さん、ノリノリですね」  山崎由佳が遊里に話す。広志がこうして動いている間、蓮は…。  「これは…」  「俺達はヒロの吐血した内容物を持ってきたんです。この前ケンゴ先輩の『あいつの体調に気をつけろ』というアドバイスが気になって…」  睦月は蓮に厳しい表情で話す。広志が吐血したのを見てこっそり内容物をふき取って研究所に送って調べてもらい、その結果が出たのだ。  「17歳にしては老化がひどい…!!」  「何が彼にあるんですか!?」  戸惑いながら蓮に迫る少女。彼女は役千明(えんのちあき)といい、現役の女子高校生である。同級生の前田光輝とコンビを組んで蓮のサポートに入っている。大柄な光輝はゼンキと戦争孤児から慕われていて、千明とコンビを組んで戦う。普段は強気でややセクハラ的な言動をするところもあるが、何事にも負けない芯の強さを持った彼女に弱みをしっかり握られているので頭が上がらない。  「あいつにしてはありえねぇ…。だが…!!」  「何があったの、ゼンキ!?」  「あいつ、この前ぶっ倒れていたんだ!1週間前に、頭を抱えて…」  「じゃあ、遺伝子そのものにダメージがあると言うわけなの…!!」  「どうしたらいいの、ノノちゃん…!!」  千明と少女が戸惑う。ノノといわれていたのは野々宮ノノといい、ドルネロの秘書を勤める現役女子高生である。  「クソッ!」  「ゼンキ!」  「俺は自分の無力が悔しい…!あいつが苦しんでいるのに何も俺達が支えられねぇなんて…!!」  悔しい表情でゼンキが壁を叩く。彼の胸元にかかる金剛不動明王のペンダントが激しく揺れる。  「俺とても何とかしたい、だが彼は止められないだろう…。彼の責任感ゆえか…。自分が戦わなければ数億人の人たちの命が奪われてしまう。そうなることを防ぐには手段を選ばない覚悟を背負って…!!」  蓮は広志がテックセットして戦うときを思い出していた。イムソムニアの奇襲を聞いて真っ先に飛び出し、戦いに向かう。そんな彼に大きな爆弾があるというなら、何が何でも止めなければならない。  「あいつはこのままじゃどうなるんですか」  「このままだと確実に死に至る。絶対に彼を止めなければならない」  「じゃあ、頼みますよ。これが買い物のリスト表です。近くにゾーダたちが荷物を運ぶよう手配はしています」  「分かった、話を聞いて動いてくれるとはすごい」  輝と綾乃が買い物に出た後、広志は魁ににやりとする。  「ヒロ、お前したたか過ぎるな」  「まあな。魁、輝先生とお前そっくりだからな。思ったことをすぐに口にする性格がそっくりがね」  「確かに、似てるな。僕も同感だ。君とトランプをした際には表情が読めにくくて大変だった」  「それは俺も同じですよ、あなたはぶっきらぼうに見えて本質を見抜く力がある」  白衣を纏った青年に広志は答える。四宮慧は苦笑いする。  「君は本当にしっかりしているな。まさか浅見さんまで動くとは…」  「あいつはなかなか煮え切れないからな。ここで一気にあおろうと言うわけか、慧先生」  「そういうことです。一気に行きましょう!」  「やる気満々ね」  「ドルネロにも協力してもらったものね」  「ああ!」  広志の策略は簡単だった。近くにあるホームセンターのイベントでイルミネーションのイベントがある。そこで、イルミネーションのアイデアを考えついたと同時に、輝と綾乃をそこに向かわせてプロポーズさせようという目論見だった。元々は輝がイルミネーションの設置を提案したことだが広志がその提案に乗っかかったのだ。  「ヒロ君、終わったよ」  「女性陣に逆らう度胸はないでしょう、片岡先生」  「まあね、君の言うとおりだ」  「でも、綾乃が輝先生のことを好きなのは患者思いの性格でしょ」  「それは言える。僕も同感だな」  「ほんじゃ、行きますか」  広志が立ち上がる。タックが声をかける。  「僕はなぎさ達と同行する。僕で出来ることがある筈だ」  「ああ、タックに任せる」  「まあ、お前は俺達の仲間だからな」  「直人、君も意外なことを言うな」  「お前は小生意気だが、しっかりしている。俺達は水と油のような関係だが、お前が一つにしてくれている。感謝しているさ。ロボットなんかじゃない、俺たちの仲間だ」  「ふーん、その高野広志、相当強いやつですね」  「彼を侮ってはいけない。彼はお前の良き好敵手になって立ちふさがるはずだ。だが、嫉妬ではなく前向きな意味で凌駕していかねばならない」  初老の男が青年に話しかける。  彼は相羽直人といい、三十年戦争でテッカマンアトラスとして戦った戦士である。普段は優秀な外科医なのだが、テロリスト集団イムソムニアとの戦いでは先頭にたって激しく戦う。  「俺は実際どこまでそんな心の広い男になれるかわかりませんけどね」  「お前なら出来るさ、福助。お前にテッカマンの力を与えたのはお前にある心の優しさとひたむきさだ。お前はどんどんと強くなっていく」  「俺は徹底したエゴリストにすぎませんよ」  「だが、そのエゴは他人を思いやるために生まれたものだ。そこからお前に必要な力を自分の手でつかみとれ」  青年は桑田福助といい、あのセルゲイ・ルドルフ・アイヴァンフォーに憧れていた。偶然直人にその実力を見出されたこともあったが、直人がセルゲイの盟友だったことから弟子になっていた。 -----君はかつての私に似ている…。自分でできることはやろうとする…。だが、君は若さ故に一人で突っ走る傾向がある…  直人は福助にある僅かな懸念を見抜いていた。そこで同年代の広志の話をしたのだった。  「おせっかいだな、君達は」  タックにほのかはのんきに話す。  「あの二人、牛歩そのものですよ。それなら後押しした方がいいんです」  「まあ、竜也や遊里のようなお人好しにはお人好しが集まるんだな。僕もあの二人が結ばれてくれる事を望んでいるんだ」  「タック…」  「竜也も遊里と一緒になれたのは輝の存在だったと話していたさ」  『タック、もうそろそろ二人が買い物袋一杯で来るはずだ。直人に頼んであるので偶然会ったように装ってもらい車に荷物をのせてやってくれるよう四人に頼んでくれ』  「ああ。それと引き換えに掛け毛布を手渡すさ」  竜也達の持つ通信端末には周辺の分析機能、通信端末同士の連絡やタックとの連絡機能が付いている。  「俺が引き受けます」  「ゾーダ!」  「任せとけよ、ほのか」  ゾーダ(本名・朱雀善太郎)は輝と綾乃の近くを歩く。そして二人に挨拶すると荷物を引き受ける。入澤サクヤがにやりとなぎさにつぶやく。  「さすがに朱雀先輩だ」  「サクヤ、後はあの二人がどう動くかだよね。でも何でゾーダが引き受けたの?」  「何たってゾッコンだもんな、ほのかちゃんに」  サクヤに突っ込まれてほのかが顔を赤らめる。ゾーダに背中を預けられるような関係になっており、ゾーダもその信頼関係に反することはしないと決心しているのだ。  「みんな、終わったぜ。ヒロさんの目論見どおりになりそうだ」  「どうしたの、ゾーダったらニヤニヤしちゃって…」  ほのかが聞く。ゾーダはほのかにイヤホンを渡す。ゾーダは電子工作はもちろん、機械いじりが趣味である。  『綾乃さん、俺…』  「まさかあのホッカイロの中に盗聴器を仕掛けていたの?」  「まあね…。輝先生って不器用でもどかしくてさ…。いざって時には押して押しまくったほうがいいんだぜ。優しすぎてさ…」  「さすがに策略家だけあるぅ…」  「静かに!」  サクヤが戒める。その頃…。  「よくここを選んだね、ヒロ君」  「慧先生が去年神戸ルミナリエで令以子さんとデートした話をしていたじゃないですか。そこから何となく浮かんだだけですよ」  「さすが女心をしっかりつかんでいるわね」  「いや、俺はヘタレに過ぎませんよ」  美紅が腰をかがめて様子を見計らう。  「あの二人、キスしているわ…」  「やっぱり…、俺の踏んだとおりだ」  だが、広志の体に芽生えた爆弾が炸裂しつつあるとはそのとき誰もが分からなかったのだ…!!広志は心臓に手を当てていた。  「ひかり、ステーションワゴンの医療機器の調整を頼む!」  「えっ、どうしたの!?」  蓮が厳しい表情で女性に指示を出す。  彼女は蓮の婚約者である早坂ひかりといい、中学時代からの交際相手である。蓮が外科医になろうとした動機とは輝の父親で自身の心臓病を治療してくれた光介への恩返しもあったが、中学時代苦手だった古文を教えてくれたひかりが原因不明の腹痛と下痢に苦しんでいることを知って治療しようと協力したことがきっかけだった。  その後ひかりは蓮のアドバイスを受けて持病を克服できたのだが、蓮の奔走する姿に惹かれて告白した。蓮が「ひかりのおかげで暴走しなくてすむ」と公言してはばからないのも当然だ。蓮が一見は冷淡そうに見えて、実は患者を守るために熱い思いで戦っていることを知っている存在の一人である。救急救命士の資格を持っており、戦場でも手際良い対応を見せる。  「まさか、ヒロ君が…」  「ああ、彼は持病を抱えていることが明らかになった。その持病が頻繁に起きていると知った以上、なんとしてでも救わねばならない。これ以上天下航空の犠牲者を生み出すわけにはいかないんだ…。俺は偉大なる光介の思い出にとらわれていたが、ひかりとの出会いで克服できた…。これ以上悲劇は生み出す訳にはいかない…」  「汚名は私も背負うわよ…」  「君には汚名を負わせる訳にはいかない」  「私が好きだって打ち明けた際に汚名も背負う覚悟も持つって決めてあるのよ、大丈夫」  厳しい表情でひかりもうなづく。  「君の一言で助かった…。このままでは俺は悪魔にならなければならない…。殴りつけてでもあいつを止めなければ…!!」  「蓮さん、焦ってどないすんですか」  「元、これは笑い事じゃない、あいつの最大の危機だ!!」  落ち着いた表情で話すのは豊島元といい、蓮たちの遠縁の親戚である。その瞬間だ、エマージェンシーコールが響き渡る。蓮はモニターを眺めると真っ青になる。  「タックからの緊急信号だ!場所はホームセンターの脇のクリスタル広場だ、急ぐぞ!!」  「蓮はん、僕はクランケの受け入れ態勢に入りますわ!」  「頼む!ひかりは車内で機具の調整を!!」  「分かったわ!!」  「綾乃さん、俺、自分の力で幸せにしたいし一緒に歩みたい…。俺と結婚してください…」  顔を赤らめながら輝が話す。  その声を聞いた瞬間ゾーダたちが小さくガッツポーズを見せる。そして広志たちは…。  「チェックメイト!やったな、ヒロ!!」  魁が小声で広志にガッツポーズを見せる。プロポーズがうまく行ったようで輝と綾乃が抱き合っている。由佳は感動の涙が止まらず、美紅と泣き合っている。  「綾乃、泣いているわよ。感動したみたいよ」  「よかったな…」  慧と令以子がほっとした表情で話す。陰でなぎさがサクヤとハイタッチをして喜んでいる。広志は渋い表情で言う。  「まあな…。だが俺達はさりげなく後押ししたまでの事。煽るつもりなど俺にはない」  「今は祝おうじゃないか。将来がみえたのだからな」  「片岡せんせ…、ウウッ!!」  「おい、どうしたんだ!!」  広志は目を閉じていたが突然口に手を抑えて慧の足元に崩れて倒れ込む。魁と竜也が広志を起き抱える。そして美紅が意識を失った広志の口元に耳を傾けると喘ぐ呼吸が聞こえる。  「ハァハァ…」  「過呼吸状態よ…!!」  「口から血が流れて…!一体どういうことだ!!」  「竜也、ヒロに何があった!」  「タック、蓮先生に連絡を入れてくれ!!救急車を呼んでくれ!!!」  「分かった!これはただ事じゃない!!」  驚きの声を上げてタックがすぐに連絡をとる。だが、その声に輝がはっと気がつく。  「タックの声だ!」  「輝先生、まさかあすこに人が…!!」  「もしもし、蓮兄ぃ、あたしです、令以子です!近くなんですか!?ヒロが危ないです!!」  「ヒロ!!」  異変に気がついて駆けつけたタックの後を追いかけて入ってきたなぎさ、サクヤ、ほのか、ゾーダが広志の異変にショックを受ける。ゾーダがほのかと一緒に広志のもとに駆け寄る。広志は口から血を流していた。ゾーダがすぐに広志を起こす。  「高野先輩、しっかりしてください!」  「これはいそがないと…。救急車を!!」  「君達が…!!」  愕然とした表情で輝が立っている。綾乃は広志の首筋の動脈を測っていたが険しい表情になった。だが、この事は潜在化していた広志の爆弾が目覚めたきっかけにすぎなかったのだ…。真っ青な表情で蓮が急停車したステーションワゴンから降りて駆けつける。ひかりも一緒だ。二人が意識を失った広志を見て険しい表情になる。  「ヒロ!」  「蓮兄ぃ!」  「くっ、手遅れだったか…!急いで彼を車の中に!これはまずい!!」  彼の持つステーションワゴンの中には人工呼吸装置など救命装置が備えられている。緊急措置や簡単な手術程度ならこの車の中でできるのだ。戸惑いながら綾乃が蓮に聞く。  「蓮先生、ヒロ君に何があったんですか!?」  「詳しい話は基地でだ!今は早く緊急措置を!!」  「急ごう、このままでは彼の命は危ない!!」  「ここは…」  「警察軍川崎基地だ。さっき、俺達のサポートをしていた時にあんな事になるなんてな…」  広志は警察軍川崎基地に運び込まれて蓮、輝、慧の治療を受けていた。  「お前の病気だが、先ほど結果が分かった。老化が急激に進行していて、歯止めが利かない状況だ」  「どういう事なの!?」  驚きで美紅が聞く。タックが即答する。  「老化を制御する遺伝子で、テロメアというのがある。おそらく、その遺伝子が暴走しはじめたのだろう…。デザイナーズチルドレンの特徴なのか…!!」  「くっ…。こんな時に遺伝子に翻弄されるとは…!!」  「焦ってはダメだ、竜也。今我々には何が出来るのか考えねば…」  「親父…!!」  「渡さんの言うとおりだな。とにかく、僕らで情報を集めるが…」  その時だ。アヤセが病室に入ってくる。  「ヒロ…、お前も命に爆弾を抱えていたのか…!!」  「アヤセ!」  「そういう事だったのか…」  土門がアヤセからの説明を聞いて真っ青になる。  「心臓病を俺は抱えている。だけど、俺は生きたい…。この仲間達と共に…」  「今、何故この事を打ち明けようと決めたんだ。どうして僕らに隠していたんだ」  「ギエン、俺の病気はヒロと竜也しか知らなかった。二人とも秘密を守ると約束してくれた。だけど、ヒロがこんな状況じゃ、俺も諦める訳にはいかない!!」  「君は治療に専念すべきだ、それも今すぐに!!」  渡が厳しい口調でさとす。しかし、アヤセは動かない。  「俺は、同情されたくはない」  「じゃあ、なんだ。渡さんが善意で言っている事を疑うつもりかよ!?」  「口論はやめてくれませんか!!」  広志が厳しい声で制する。輝が広志に続く。  「土門さんや渡さんの気持ちは分かるし、アヤセさんの想いだって承知だ。だが、問題はアヤセさんがどうしたいかじゃないのか」  「そういうお前はどうなんだよ、ヒロ」  土門が広志の肩を揺さぶる。  「俺は決めています。残された時間があるならば、その時間に俺に出来る事をするしかない…。俺は最後まで戦います…」  「ヒロ…!!」  「補助薬剤でなんとか持たせるだけまだ可能性が俺にはある。ならば残された可能性と未来に俺は賭けます」  「そんな、無茶よ!」  美紅が鋭く叫ぶ。だが、広志は動じず答える。  「答えはそれしかない。ここで俺が黙ってみていろ、イムソムニアの侵略は止まらないじゃないか!」  「アトラスみたい…。そんなに一人で背負い込んでどうするのよ、ここは休まないとダメなのよ!」  ほのかが突っ込む。普段はほんわかとした雰囲気なのだがいざと言うときには苦言もいえる存在である。戦闘に立つときにはあえて切り込み隊長的な役割も担う事もあるほど精神的にタフだ。それでも広志は揺るがない。  「俺は、これ以上誰も失いたくない…。これ以上失うなんて嫌なんだ!!」  「それが命を落とす結果になっても!?そんなことは嫌よ!!」  「それぐらいの覚悟がなければ、俺はここまで戦ってこない…!!」  「そうか…、俺達はお前の思いも抱えて戦うさ…」  「竜也…」  遊里が動揺する。こんな厳しい眼差しの竜也は見たことがない。  「アヤセも、心臓病を抱えながらここまで戦ってきた。今まで俺たちはヒロに支えられてきた。今度は俺たちの出番だろ…」  「本当に戦う気持ちにゆるぎはないのか…」  広志相手にマーフィー・クルーガー警察軍大学付属高校・校長は聞く。  「最初にテックセットをするよう校長に求められ、受け入れた時にこの運命を受け入れると決めました。この悲劇を断ち切ってこそ、俺にできる事じゃないですか…。一度剣を手にした者は血によってその手を汚し、最後は剣によって滅される宿命ですから…」  「なおさら、テックセットは禁止だ」  「じゃあ、黙って奴らの侵略を見ていろと言うんですか!?」  「ヒロ…!!」  「今は一人でも多くの人達が戦わないといけないんです。そんな状況で、俺がリタイアするのはアイツらがまずいじゃないですか」  「君の中にある責任感か…」  「責任感なんかじゃない、守りたいものがあるんです…」  「何を守りたい」  クルーガーは広志に聞く。ベッドから起き上がろうとする広志を抑える美紅。広志の手は悔しさを隠せなさそうに震え、涙すらこぼれ落ちる。  「人の未来…。終わりのない明日を信じたい…。ここで俺が戦線離脱なんて…」  「高野君…」  「尚更、黙って人々が死ぬのを見ているのでは無力感だけしかない…。それじゃイヤだ…。俺が罪を犯した以上、それは俺の手で償わなくちゃダメなんだ…!!」 ----ここまで戦神の血を受け継いでいたとは…!!  クルーガーは広志にセルゲイの面影を見た。セルゲイは三十年戦争を終わらせた立役者で、最後は実父で連盟軍のリーダー格のイワンと戦って倒したが自身も病気に倒れた悲劇の武将だった。もし、彼が生きていれば優れた国家指導者になっていただろうと仲間達は評していた。広志はそのセルゲイの遺伝子を組み込まれた子供だったのだ。  クルーガーにはひとつの決断があった。だが、それを用いることはさらに広志を戦争の世界に巻き込んでしまう為ためらっていた。しかし、広志の強い精神力に決断を下した。  「敢えて、賭けに出るしかあるまい…」  「どういう事ですか」  「ブラスター化だ。システムを再構築し、今までの問題点を抜本的に改良してシステムに反映させる」  「ブラスター…。どういう事ですか」  「二つのタイプを新たに加える。今の総合型に加えてスピードに特化したシステム、パワーに特化したシステムだ。そうする事で君の急激なテロメア減少には一定の歯止めをかけられる」  「…」  「しかし、失敗すれば確実に死ぬ。あくまでもテロメア減少を阻止するのも気休め程度にすぎない。それでも君は受け入れるか」  「ヒロ…」  美紅が聞く。  「やるしかない…。このまま黙って死ぬのなら、一つでも可能性がある道を選ぶしかない…。お願いします…」  「その覚悟、確かに受け止めよう」  やるせない表情でクルーガーは言う。 ---神よ、なぜ彼にこんなまでに凄惨な試練を与えるというのか…!!  年下からも慕われ、チームで強い絆をもって戦う絶対的エースがこのような過酷な立場に追い込まれる。そして、壮絶な覚悟でブラスター化を受けようとしている。  「そういうことか…」  すっかり眠りについた広志を見舞いに訪れたがっしりした男。  「山田くんには悪いけど、ヒロは眠っているのよ。どうも色々あったみたいよ」  「わかった、君が話しにくいことなら俺はあえて聞かないよ。危ない状況にあるようだね」  「ゴメンね、ヒロは分かっているから…」  「ああ、このまま神戸に転院ってことは事態は厳しいってことなんだね。小津君から話は聞いたが、かなり厳しい状況にあるようだね」  「もし、この戦いから逃げ出せるなら逃げ出したい…。だけど、ヒロは逃げない…」  「俺も分かる。あいつは自分を犠牲にしてでも人々を救いたいって覚悟で戦っている。俺もせめてあいつの戦いを支えられたら…」  山田太郎は辛そうに話す。彼は柔道部時代の親友で、今は野球部で捕手を務めている。そこへクルーガー校長が入ってくる。  「戦いだけが救いという世界では、何から何まで悲劇が襲いかかるのかもしれない…」  「校長、この戦いから高野を解放することは不可能と言うんですか!?」  「それは…」  「ダメだ…。俺には逃げることすら出来ない…。逃げたら、奴らの支配を許すことを意味するんだ…」  「高野!」  驚く山田。広志が起きていたのだ。広志はやるせない表情で話す。   「ゴメン…、山田の気持ちはよくわかる…。だが、これは俺の戦いなんだ…、俺の両親を奪ったイムソムニアに、この世界を潰される訳にはいかない…。奴らの自由なき侵略に負けてたまるか…。戦いこそが救いなんだ…」  「余りにも過酷すぎる…。だがお前の闘争心だけが今は救いなんだろうな…。常人ならば血まみれになった己の手に苦しむのにお前は…!!」  「高野君に伝えておこう、明日神戸に転院だ。そこで身体検査を受けて、そこからブラスター化だな」  「了解しました、すみません」  「君だけが戦っているわけではない、みんなで戦っているんだ。信じるんだ」  「はい…」  「あの時、君にネオクリスタルを託した際俺には確信があった。君ならば力を正しく使えると。今、君はその力を正しく使っている。俺の確信は正しかった」  そして播磨基地…。  「そういう事か…」  金髪の男が厳しい表情で美紅に話しかける。あのフラガ三兄弟の長兄、ラゥ・ル・クルーゼだ。  「ええ…。テロメアが急激に減少しているんです…」  「彼は決死の覚悟でブラスター化を選択した…。その覚悟に我らオーブも応えねばならない…」  技術者がシステムを必死に組み込んでいる。険しい表情でラゥは話を続ける。  「ドラグーン…。ただ、これを使いこなすには絶対的な精神力と集中力、空間把握能力がないと難しい。だが、彼なら出来る…」  「ヒロ…」  美紅は悲しそうに眺めている。水槽の中で広志はフォーマット作業を受けている。そこへ二人が入ってくる。  「ラゥさん、彼は大丈夫なのですか…」  「皇太子陛下、ご覧の通りです。彼は病気を隠していたようです」  「ここまでボロボロに…。過酷な宿命を何故彼は背負わなければ…!!」  キラ・ヤマトオーブ皇太子夫妻にラゥは厳しい表情で話す。  「キラ、武器の準備を急がねばなりませんわね…」  「こんな形でオーブが貢献しなければならない事は非常に悲しい…、僕はどうすればいいのだろうか…、ラクス…」  「ギャラクシーモードおよびシリウスモードの追加作業完了、後はライジングモード導入です」  「分かった、急げ!!」  ラゥは厳しい声で指示を出す。ギャラクシーとはパワー主体、シリウスはスピード主体、その折半型なのがライジングモードである。  「美紅さん、彼にいつまでも悲しい試練が来るとは思わないでください…」  「ラクス…」  「今、彼は辛い立場にありますわ。それでも、いつかはその悲しい事がこの波乱の時代を乗り越える力になってくるのですわ…」  「そうであって欲しいのだけど…」  キラ、ラクスは複雑な表情でフォーマットを見つめている。自身も同じ遺伝子を組み替えられたデザイナーズチルドレンなのに、ここまで過酷な戦争をしなければならない宿命。この戦争を止めるために更なる力を求めるしか広志には選択肢がないのだ…。  「武器はエクスカリバーだけしかないのか…」  「新たな力に耐え得るように補強はしています。しかし、他の武器が追いつきません。とりあえずプロディバイダーを改造するしかなさそうです。また、新たな支援ツールの開発も急ぎます」  紫苑和也が即答する。ラゥが厳しい表情で尋ねる。  「プロディバイダーの収納スペースは出来ているのか」  「既に組み込み完了です。後はプロディバイダーに新たな機能を加えたいんです。それで、ギエンが中心になって今舞鶴で作業をしています。戦っているのは彼だけじゃありませんから…」  「我々オーブも彼の戦いを支える。オーブをイムソムニアの闇の手から救い出したのは彼だからだ…」  「そうか…。ブラスター化は成功したか…」  川崎のクルーガー校長の元に美紅からの電話が届いたのはその夜…。  『後はプロディバイダーだけです。ヒロはラゥさんからドラグーンの操作方法を教わっています』  「彼は一刻も早くこの戦争を止めようと強大な力を欲した。それが命を引き換えにしてでもという覚悟か…。俺にはその覚悟を、壮絶なまでの決心を果たして受け止められるほどの度量を持っていたのだろうか…」  『校長…』  「彼を支えてやってくれ…。今の彼にはお前しかいないのだ…」  電話が切れた後、クルーガーは涙を流す。ギド・アブレラはクルーガーの涙を見ていた。  「許せ…。お前を戦争に巻き込んでしまった俺を…」  「あの奇跡の男のことか…、マーフィー」  「お前の言うとおりだ、アブレラ」  「辛いものだな…。あいつは自分の重圧に苦しんでいる。罪や事実に苦しみもがきながら、一人でも多くの人を救おうとしている。そこへあの命のタイムリミットが加わった結果、あいつは体がばらばらになることも覚悟で限界まで戦おうとしている…。何もかも抱え込んで未来を取り戻そうとして…」  「その彼に俺達は最後の希望を託さねばならない…。彼はただですら悲しい過去を背負っているのに、こんなことを強要しなければならないとはやるせない…。重圧に踏ん張って踏ん張った果てに崖っぷちに追い詰められた…」  「とにかく、我々にできることは全てやろう、お前も元からそのつもりだろう。我々の持つ全ての力をあいつに注ぎ込む。悪魔と取引してでもこの戦争を止めねば…!!」  「アブレラよ、本気でやろう…。もし、彼が責められるのなら、俺達もその責を負う事ぐらいは覚悟だ…」  「ああ…、お前の覚悟、しっかりと受け止めた…。武器で稼ぐ時代は一刻も早く終わりにしなければな…」  アブレラはクルーガーの目を見つめる。  その頃イムソムニア・淡路島基地では…。  「そこまで手を打ってくるとは…」  「おそらく、ブラスター化を奴は選ぶはずです。新たな戦力を投入し、奴を混乱させましょう」  小坂直也はキアス・ベアードの言葉にうなづく。そしてそばにいた男女が立ち上がる。  「龍ヶ崎蝶子、ホレス・ガンビーノ、お前達の出番だ」  「待っていましたぜ。あのガキどもを殺したくてウズウズしていましたよ」  黒髪の女は無言で立上り、金髪の男がニヤリと笑う。男の口調はややハイテンションのようだ。  「この龍ヶ崎、強烈なフィジカルであの男を苦しめて差し上げましょう」  「ああ…、そこにこの俺のあくどい手法で苦しめてしまえば鬼に金棒ってわけでな」  「侮るな、あのアトランティスは強い」  キアス・ベアードは厳しい表情で言い放つ。    「竜也さん、急ぎましょう!」  「ああ…。シオンやギエンの指示通りにプロディバイダーは加工した。後は第三のモードが起動するかだ」  竜也は厳しい表情で部屋へと案内する。そこで油にまみれた青年がシオンを見て話す。  「テックシステムの強化はどうなっているんですか」  「成功したよ。その後ヒロは新たな切り札で研修を受けているよ、ゾーダ」  「だけど、シオン。ヒロには時間がないんだ。一刻も早く新たな武器を作らなくちゃ…」  「焦るんじゃねぇよ、ギエン」  ドルネロが思わず苦言を呈する。  「今は俺達にできることをやるしかないんだ…」  「おめぇ、睡眠時間も考慮に入れておけよ」  「ありがとう、ドルネロ。だけど、今俺達ができることをやらないと、あいつを支えられない…」  ドルネロはアヤセに不安そうに言う。輝の診断で手術を行うことにはなったが、できる限り戦線離脱を避ける方針にしていた。遊里は携帯電話に出ている。   「そう…、良かったじゃない…、認められて…。私も竜也とどうなるか分からないけど、明日来るの?気をつけて」  「遊里、誰からだ」  「綾乃からよ。輝先生との婚約が決まったわよ」  「良かったじゃないですか」  シオンが遊里に言う。綾乃が輝との婚約を認められたのだ。困った表情のピエール・ヘリックが気にかかった巽纏はピエールに声をかける。ピエールはドルネロの執事だが、その知恵の豊富さを買われてチームに加わっているのである。  「ピエール、どうしたんだ」  「纏さん、強化システム「テクノフライヤー」ですが今ここまで組み上げています。アトランティスの武装強化にはなりますけど、動きがそれだけ遅くなりそうです」  「俺ももう少し考えるさ。火力を防ぐにはもう少しアイデアが必要だ。賢いピエールが頼りなんだ」  「そこを何とか頑張りますよ。せめて一押しみなさんも助けて下さい」  「おめぇも相当ごますりがうまいぜ」  渋そうな顔のドルネロである。その頃、広志は…。  「すっかり疲れきったようだな…」  「ラゥさん…」  ラゥは眠りきった広志の左肩を抱えるとベッドに横たえる。美紅はほっとした表情だ。  「いつまでも昇らない太陽はない。君は彼を信じて支えてくれ。きっと彼の戦いが報われる日は来る」  「でも、短時間でドラグーンをマスターするなんて…」  「悲しいことだ、そんなことを彼にさせねばならないとはな…、オーブにとっても、彼にとっても…」  「どうしてここまで抱え込もうと…」  「失うことを恐れているのだろうな…。本当だったら、剣を手にして戦うことはさせたくなかったが…。力に押しつぶされかかっても凄まじい精神力ではねのけて、命のタイムリミットか…!!限界に来つつあるのかもな…」  「こんな過酷な試練なら代われるものなら代わってあげたい…!!」  ぼろぼろと涙を流す美紅にラゥは肩をそっと叩く。  「君の思いは必ず報われる。大丈夫だ」  2 轟く命  羽鳥島…。  「ここでドルネロ達の武器を待っていろという事か…」  「そうね。舞鶴で加工しているみたいよ、武器は」  「焦るつもりはないんだ。焦ったら終わりだ」  二人は海を眺めている。静かな波音がなぜか心に染み入る。戦争を忘れそうな雰囲気だ。二人は一週間の休暇を警察軍から命じられたのだ。普段の過酷な戦いから離れてほっとした時間だ。  フェリーが止まると同時に乗客が降りてくる。  「こうしてみると、戦いを忘れてしまいそうだ…」  「あら、テル先生よ。それに綾乃さん…」  「本当だ…。一体何が…」  広志と美紅は二人に近寄る。戸惑う二人。  「ヒロ!どうしてここに!?」  「ブラスター化は完了して、今は武器を待っています。ここで試運転という事になりそうです」  「ところで、どうしてテル先生はここにいるんですか。ひょっとして綾乃さんと婚約しちゃってて?」  美紅に突っ込まれて顔を赤らめる二人。たしなめる広志。  「よせ、そんなはしたない事は」  「この島にテル先生のお母様がいるのよ。診療所をやっているというので挨拶も兼ねてここに来たのよ」  「なるほど…。父君の説得で大変だったでしょう…」  苦笑する綾乃。綾乃には頑固な父親(主に高層ビル向けの設計を手がける会社の経営者)がいて、輝との交際一つとっても苦労したという話がある。大きな決断を下したという事は、相当苦労したのだろう。戸惑う表情の輝。  「本当にいいのだろうか…」  「美紅、ここは俺が話を聞くよ。美紅はここまで輝先生の御母堂を案内してくれないか」  「任せて!」  美紅は綾乃から地図を受け取ると走っていく。  一時間後…。  「ヒロ…」  「俺も、父母を失った一人です。それと同時に、あなたの父君を奪う原因を作った一人です。全ては俺の罪ですから…」  「この島に来て、果たして良かったのだろうか…」  「どういう事ですか」  「テル先生のお母様はこの島で診療所を経営している内科医なのよ。テル先生は小さい頃に離れ離れになってからあった事がなかったの」  「それで戸惑っていたという事なのか…!!」  広志は悲しそうな表情で輝に向き合う。  「ずっと会っていなかった。だから、戸惑って、俺は…」  「自らの腹を痛めて産み落とした命に愛しさがないわけがない。会うべきですよ」  広志は輝の背中をさすりながら言う。  「だが…」  「戸惑ったって、前には進みませんよ。実の母親が子供を想わない筈がないじゃないですか。そうじゃなかったら、俺達が最後まであなたを支えますよ。綾乃さんだっているじゃないですか」  その時だ。広志の額が鋭く光る、テッカマンが接近した証拠だ。ここまで追い続けるとなれば因縁のあの男しかいない。大空を見上げると禍々しい魔神が二体の悪魔を率いて現れる。  「探していたぞ…!!」  「キアス・ベアード!!」  広志は輝、綾乃をかばいながら睨みつける。プルートゥは狂気の爪を手に広志を睨みつける。  「ゴッドハンドの忘れ形見か…。奇跡の子や愛しの存在を巻き添えに地獄でゴッドハンドどもと再会するか…」  「ふざけるな!ヒロがこんな場所で絶対にお前に負けるわけがない!!」  輝が鋭く叫ぶ。きっとした表情で綾乃も言い返す。  「あなた達は最悪の犯罪者そのものよ…!!絶対に許せない…」  「行け、バタフライ、ホーカー!港を壊して孤立無援にしてしまえ!!」  女性を連れて美紅が駆けつける。だが、広志が二人を庇う姿を見て事を悟った。  「美紅、ここから安全な場所までみんなを連れて逃げろ!!」  「ヒロ!」  ポケットからネオクリスタルを取り出すと広志は厳しい表情で周囲を見渡す。戸惑う女性。  「彼女があなたのご母堂…!!」  無言で広志の指摘にうなづく輝。広志は厳しい表情を固めた。  「海清さんを連れてきたわ!まさかこんな事になるなんて…!!」  「美紅はみんなを安全な場所へ!奴らは明らかに俺を狙っている!!」  「イムソムニア奇襲!」  「何、イムソムニアだと!!」  ゼーラ・松江にあるゼーラ軍基地では…。  「羽鳥島をテッカマンプルートゥら三体が奇襲、警察軍のアトランティスが迎撃する模様です」  「福助、お前の出番なのだ」  「ああ、サルサ!」  福助は浅黒い青年にニヤリと笑う。その時だ。  「あの島の周辺を私の甥っ子たちが訪問している。彼らに支援をお願いしよう」  「マスター!」  山中真雪が驚きの表情を浮かべる。普段はゼーラの絶対的エース・福助=テッカマンアポロンに任せている直人が今回に限って親戚たちに任せるということは何か意図があるはずだ。  直人は厳しい表情で画面を見つめる。  「お前たちはアトランティスの戦いから何かを学び取れ!」  「分かりました…!!」  「タカヤ、シンヤ、ミユキ、聞こえるか!?」  「直人おじさま!」  女性の声が聞こえる。  「済まないが大至急羽鳥島に直行し、アトランティスを支援してくれ!」  「分かりました!」  「みんな…!!」  港に停泊されている船が次々と沈められていく。  その事に輝は怒りの拳を握り締める。だが、広志が前に進む。その目には怒りもやるせなさも悲しさすらもある。輝と綾乃はその表情に震え上がる。  「輝先生…、俺がまたしてもあなたを戦いに巻き込んでしまったんですね…」  「ヒロ…!!」  「奴らの目的は俺一人。ここは俺が行きます。先生は美紅と一緒に綾乃さんと島の人々を安全な場所へ誘導を頼みます俺はこの場を逃げ出すわけには行きません!!」  「ヒロ、お前は!?」  「仕方がない…、輝先生、こうなった以上は俺がぶっつけ本番で奴らと戦うしかありません!何もしないで人々が苦しむのを黙ってみていられますか!!美紅、二人を頼む!!」  美紅に輝と綾乃を託すと激情をむき出しにした広志はネオクリスタルを構える。こうなると美紅には広志を止められないのは十分わかっていた。やるせない想いを押し殺して広志に言う。  「必ず、勝って戻ってきて」  「ああ…。奴らが真東先生の故郷を踏みにじるのを俺は見過ごすわけにはいかない。ましてや、傷つく事が罪というなら、この手で死ぬまで俺は罪を抱えて最後まで闘う!テックセッター!!」  その声と同時に広志の体はクリスタルフィールドに取り込まれたかと思うとオーバーテクノロジーで武装されたトリコロールの白き超人へと生まれ変わっていた。海清は驚きを隠せない。  「彼は一体…!!」  「テッカマンアトランティス、見参!でりゃっ!!」  20本の純白の翼を大空に大きく展開させると広志は三体の悪魔目がけて突き進んでいく。その中で待っていた宿敵が警察軍の絶対的エースの前に立ちふさがる。  「キアス・ベアード!!」  「この前の川崎での屈辱、晴らす!!」  「お前たちの滅亡のストーリーはこの手で食い止めてみせる!!」  プルートゥとアトランティスの激闘だ。そこを蝶子とホレスがねちょりねちょりと攻め立てようとする。これに広志は語気を荒げる。  「テメェら…、羽鳥島に手を出すな…」  「な…」  「羽鳥島に手を出すなと言ってるんだ!ウォォォォォォォォ!!」  感情を爆発させた広志は自分の意思でリミッターを解いた。アトランティスの胸のクリスタルから光が放たれる。そして広志の脳の中であたかもガラスが砕けるかのような衝撃が走る。いつでもこの瞬間は不快感を感じる。だが、今はわがままなことは言っていられない。 ----この体が砕け散っても構わない…、無力感に満ちたやるせない想いだけはもうイヤだ…!LIMITED!!  その封印を解いた事はすなわち死と背中合わせという事だ。それでも迷わず怒涛の力と光速の勢いを解き放った広志は三体の悪魔目がけて突っ込んでいく。核融合エンジンで形成された強力なエンジン・オーバーロードトップギアを発動させ、力任せに突っ切っていく。  広志の猛攻をただ見ている事しか美紅達にはできない。広志の咆哮が羽鳥島に大きく響きわたるとチェーンが島を囲む。それは広志の生命を確実に削る強力な防御だ。だが、それでもしてでも一人でも多くの命を守りたい強い意志が広志の躊躇を捨てていた。その視野の広さ、自己犠牲に徹し、果敢に戦う姿勢と広志はまさにもがき苦しみながらも日々成長を遂げていたのだ。眉をひそめるキアス。  「うぬぅ…、バーチャルチェーンだと…」  「この野郎!」  ホレスは体当りをかけるも、逆にチェーンの電流が襲いかかる。そこを熾烈なまでの怒りを燃やす広志のエクスカリバーが牙を向いて襲いかかる。三体の悪魔と広志の刃の火花が大地に走る。  「何故だ、貴様の命を削ってでもこのちっぽけな島を守ろうとする…。俺達と同じ繁栄を享受すべき同種が、何故愚かな支配されるべき人類の味方をする…」  「ちっぽけなんかじゃない…。俺はみんなと約束したんだ…。最後まで絶対に諦めない…、人の営みが有る限り、俺はできる限り、託された力で守り抜く…!!」  そう言い放つと広志はエクスカリバーで切り返す。その姿をただ見つめる事しか美紅にはできない。自分にできる事を精一杯する事しかできない広志の痛みを代わってやれる事もできない自分にやるせなさを覚えていた。広志は宿命の好敵手ばかりか、自らの宿命と真っ向から戦っているのだ。死と背中合わせになった今、ひとつひとつを広志は大切にしようとしていたのだ。  「いつものヒロとは違う、死に急いでいるかのようで…!これじゃ最初からマックス同然じゃないか…!!」  「あたしたちのために、ヒロ君が…!!」  「気迫が普段よりもするとい…!!」  輝と綾乃は知っていた、広志が戦いに巻き込まれている事に苦悩していることも、その一方で悪意あるものたちからこの世界を守りたいと悲壮感で戦おうとしていたことを…。本人は涙は見せなかったが、どれだけ苦しんでいるかも知っていた。その孤独なまでの苦しみを受け止められないことにもどかしさすら覚えていたのだ…。  「行け、ドラグーン!」  アトランティスの翼から放たれた羽状のマニュピュレーターが次々と三体の悪魔に襲いかかる。広志の強靭な精神力と類稀なる集中力、そして絶対空間把握能力を備えないと使えないドラグーンだ。強化された20本の翼はドラグーンという強烈な武器を新たに手にしていた。これこそ、オーブが絶対的戦力としてオーブ奪還戦で活躍した広志に託した新たな希望だった。  慌てふためく悪意の総意・プルートゥ目がけて広志は弾丸のようなスピードで襲いかかる。 ----ラゥに託されたものをここで出す…!力だけで未来は勝ち取れない…、ならば奴らの悪意の牙から俺はこの生命を賭して、この世界を、希望を守る!!  前日、ラゥからの講習を聞いていた広志。ラゥはこう話していた。 -----オーブの人たちはオーブの自由を取り戻してくれたお前とともに戦っている。諦めるな、ドラグーンはその証なのだ…!!  「当たれ!!」  広志の放つドラグーンは次々とラダム兵を撃墜していく、広志の強い思いを乗せて。  「うぬぅ…。ブラスター化したか…」  「まだだ、これはLIMITEDだけだ!だが、貴様らにはこれだけで充分だ!!」  「四国に飽き足らず、今度は羽鳥島までか…!伯父さんの頼みで俺達も加勢させてもらう!!」  その声と同時に三体の戦士が駆けつける。驚く広志に彼らは鋭く叫ぶ。  「テッカマンブレード!」  「テッカマンラムダ!」  「テッカマンレイピア!」  「Dボウイ!貴様ら…!!」  「イムソムニアは俺達が倒す!!」  「アトランティスはプルートゥに専念してくれ!」  三人のリーダー格であるブレードが頼む。  「加勢に感謝する!行くぞ、キアス・ベアード!!」  「ヒロ…!!」 ----あたしはヒロが傷つくのを黙って見ているしかないの…?どこまでヒロは戦わなければならないの…!?   「あの子はなぜああまで生き急いで…!!」  「遺伝子に関わる病気とも戦わねばならないんです、ヒロは…」  「あなた、あの子の事が好きなのね…!!」  海清に美紅は無言でうなづく。その手は心身ともに軋みながらも戦う選択肢しかない広志をただ黙ってみていることしかできない事への無力感でかたく握り締められている。広志はキアスの爆撃に思わず足を食いしばって耐えた。悲鳴を上げる美紅。  「ヒロ!!」  「攻撃がバラバラなんだ…!!みんな、連携プレーで攻めるんだ!!」  輝が素早く指示を出す。広志はすぐにうなづくと三人の動きを把握し、三人に叫ぶ。  「みんな、主導権を俺に預けてくれ!この島を守りたいんだ!!」  「わかった、ミユキはラダム兵を!シンヤはテッカマンを!」  「了解!」  「なんという恐るべき怪物だ…!!」  岩瀬寿文は驚きを隠せない。  広志は相羽三兄弟の特徴を見ただけで相手に合わせて攻めていく。その柔軟性に福助は黙ってみている。自分にないのはそうした柔軟性だ。福助はエゴを全面に押し出してアグレッシブルに戦う傾向がある。  「桑田くん…」  「藤枝…、あいつは兵士と言うよりは本当の怪物だぜ…。あの島の住民はあいつの伝説を必ず語り継ぐだろうな…」  羨ましそうに福助はつぶやくと拳を握り締める。スタッフの中から応援の声があがる。  「行け、アトランティス!」 ----俺はあいつと同じ人々への思いを抱えている…!なのにあいつの戦いを見てくると何かが違う…!!  「どうした?」  「菊地…、あいつの戦い方に何か焦りを感じないだろうか…」  「焦りか…、緊迫感を感じてくるが、一体何があいつに…」  広志は吼えながらプルートゥに立ち向かっている。その思いがモニターを通じて伝わってくる。  「だが、力だけで奴には勝てない。情熱だけでもだ…」  3 新たな力 再会、母よ…  その頃…。  「纏、奴がどうやら発動させたらしいぜ…」  「ドルネロでも止められないのか」  「無理だぜ。あいつが選んだ決断だ。あいつの想いを組みとってやるしか俺達にはやれる事はない。あいつは自由の騎士そのものだからな…。命を賭して果てることのない争いから自由と平和を守ろうとしている…」  ドルネロ達が携えていた荷物。それは紫苑、ギエンが必死になって改造していた武器だった。その武器が完成したため、ドルネロ達は広志に渡そうと追いかけていたのだった。凄まじい火花が海にまで散ってくる。タグボートを運転する纏は厳しい表情でいう。  「あいつなら、絶対に使うって分かっていた…。あいつは誰よりもこの世界を守りたいって強い気持ちがある…」  「僕が偵察に向かおうか、ドルネロ」  「いや、無理だぜ。奴はバーチャルチェーンで周囲をカバーしているはずだぜ」  「さすがにヒロは抜かりない…」  大空を見上げる纏。広志の咆哮が大地に響く。  「ウォォォォォォ…!!」  「裏切り者め、死ね!」 ----俺はここで死ぬわけにも、屈するわけにも、負けるわけにも、引くわけにもいかない…!!  広志の胸中には戦場で命を落とした人達の想いがあった。今はその人達のためにも、これ以上犠牲者を生み出させないためにも絶対に負けられない。目の前にいる相容れることのない憎悪の象徴に鋭く叫ぶ。  「俺に、俺達に命を預けて死んでいった仲間達がいるんだ!絶対に負けるもんか!!」  「その仲間とやらの元に今すぐ旅立つんだな!すぐに島の住民とゴッドハンド共も貴様の後を追う、寂しくはないさ!!」  「そんなことは俺達が絶対にさせない!!」  「そうよ、私達がさせやしないわよ!!」  「ホレス、お前は俺が許さない!!」  真紅の戦士が広志の背中にぴったり合わさる。相羽シンヤがテックセットするテッカマンラムダだ。四国では兄タカヤの恋人でもある如月アキ(テッカマンマルス)とコンビネーションを組み、タカヤの補佐を務める。因みに武の師匠はゴダード・マルケス(テッカマンアックス)である。  「君はプルートゥを!俺がホレスを引き受ける!」  「すまない!」  「ミユキはラダム兵とゾイガーを!俺が蝶々を引き受ける!」  「タカヤお兄ちゃん、あの船、島に入ろうとしているわ!」  ミユキが素早く見抜く。タカヤは広志に叫ぶ。  「ここはプルートゥも俺が引き受ける、お前はそのまま船を島に案内するんだ!」  「ニ体同時に大丈夫なのか!?」  「5分程度なら、プルートゥとバタフライまとめて渡り合える!ここは俺を信じてくれ!!」  『ヒロ、聞こえるか!?』  「タック!」  『僕達を島に入れてくれ!君に渡したいものがあるんだ!!』  「分かった!すまない、タカヤさん!!」  「お前の信頼に答えるさ!行け!!」  タックからの通信を受けた広志はタグボートへと向かう。タカヤは広志がタグボートに向かったのを見ながらシンヤに叫ぶ。  「シンヤ、ここはブラスターで押し切る!万が一あったら支援を頼むぞ!!」  「ああ、信じているさ!」  シンヤの答えと同時にタカヤはブラスター化して一気にプルートゥとバタフライに襲いかかる。  一方タグボートに向かう広志にドルネロ達が手を振っている。ボートの倉庫に竜也と纏の末妹である祭が駆け込むと扉を開けようとしている。後部に広志はぴったりつくと港へと向かった。港に接岸させるとドルネロが広志に目配せする。  「ドルネロ!」  「受け取れ、ヒロ!シオンとギエンが徹夜同然で作り上げたおめぇの新たな切り札だぜ!!」  ドルネロの声にアトランティスはエクスカリバーを翼の鞘に収めて駆けつける。輝、綾乃が海清、美紅と共にドルネロに駆けつける。  「これは金沢での戦いで俺が倒した…!!」  「おめぇが倒したガンバルディの武器を改良して作ったプロディバイダーだ。こいつらは俺達が守る、おめぇは誇り高い奴の魂も抱えて思う存分戦ってこい、そして憎悪も清算してやれ!!」  「どうやれば使えるんですか!?」  「こいつにゃ3タイプがある。狙撃戦のガンモード、接近戦のブレードモード、中距離戦のアロンダイドモードだ。おめぇの平和の理想をかなえるために行け!!」  無言でうなづく広志。ドルネロに初めて海清は聞く。  「この子は一体…!!」  「こいつはイムソムニアに遺伝子操作されて生まれた人類初のファーストデザイナーズチルドレンだ。だが、こいつは俺達のために闘っている。たとえ命がわずかだろうが、残忍で過酷な運命に翻弄されようが、この世界の無限の可能性とみんなの終わりのない明日を信じてな…」  「行くぞ、キアス・ベアード!!」  アトランティスはプロディバイダーを一気にアロンダイドモードに切り替えるとラダム兵目がけて突っ込んでいく。戸惑う海清。綾乃が手短に説明する。  「あの表情には見えていなかった…!!」  「海清さん、ヒロ君はあの天下航空機墜落事故で戸籍上の父と実の母を失っているんです。その事故の原因はイムソムニアによるテロだったんです。だから、ヒロ君は戦うことしか許されない宿命を敢えて背負う事で贖罪としようとしているんです。テル先生の思いもあたしたちの思いも何もかも一人で全て抱えこんて、ただ引き返せない宿命をひたすらに…!!」  「あの子もある意味では光介と同じ被害者…!!」 ------今はそんな小さな事にかまっていられるか、この島のはるかな未来を守ってみせる…!!  「退け、ラダムゾイガー!!」  広志は翼竜タイプのラダム獣を次々と突っ切るように20本のウィングブレードで切り裂くとタカヤ(ブレード)と闘っている宿命の敵の元に向かう。シンヤ(ラムダ)が気がつくと即座にホレスへの戦いに切り替える。ミユキ(レイピア)は羽鳥島の住民を守ろうとラダム兵やゾイガーに襲いかかる。そしてタカヤはブラスターモードを解除してバタフライとの戦いに戻る。そしてプロディバイダーを手に広志がプルートゥの振るう狂気の爪と激しく交錯する。  「憎悪を人々にぶつけるなら、俺が人々に代わって相手になる!キアス・ベアード!!」  「貴様…!!」  「人々の命を奪い取るお前たちに負けるもんか!生きとし生けるものがいる限り、最後まで諦めてたまるか!!」  「お前の主の仇をあいつが取ってくれそうだぜ…」  「確かにそうでしょう、纏さん。だけど、今の彼はそんな狭い世界に立って闘っているんじゃありませんよ。幾度の挫折や絶望に叩き落とされても諦めずに何度もはいあがった心が、今の彼を強くしているんじゃありませんか。だから、我々もほだされて戦えるんですよ。みなぎる闘争心を止められるのはもう、奴らには無理でしょう。彼は絶対に退くわけがない」  上空を見上げながら纏に応えるピエール。確かにそうだ、広志は猛攻をかけるも、けっして島を攻撃には巻き込ませず、ダメージを自分が引き受けている。  「ヒロには過酷な試練があったわ…。それでも、「この体が砕け散るまで最後まで戦いをあきらめない」って言って…」  「出生の秘密、両親を失った事、LIMITED…。あいつにはこれ以上の十字架なんか…」  「ヒロには壮絶な覚悟がある…。その前に奴らが立ち向かえるはずがない!!」  長槍アロンダイドはラダム兵を次々となぎ倒す。驚くキアス・ベアード目がけて広志は力を込めて襲いかかる。与えられた力の重みを広志は承知していたのだ。  「なぜ父の武器を!?」  「俺は憎悪を背負ってでも、お前たちイムソムニアを止めてみせる!プロディバイダーはその象徴だ!!」  「所詮運命に拘束された愚か者が!!」  「何もしないで人々の命が失われるのを黙って見ているぐらいなら、この手で罪を背負ってでも俺は恐怖と絶望、悪夢を止めてみせる!やがて生まれる新たな命に戦いの未来は絶対に遺してたまるか!!」  「ならば俺達を止めて見せろ!!」  「俺がこの生命と引き換えにしてでもお前達を止めてみせる!たとえ力尽きても後を引き継ぐ仲間たちが俺にはいるんだ!!仲間たちの迸る情熱はもはや止められないぞ!!」  広志の激しいまでの覚悟と言うべき闘志がこみ上げてくる。再び両者の激闘が幕を切って落とされる。それは広志の有するLIMITEDの持つ最大限の機能がついに引き出された瞬間だった。目が冴えわたるかのように相手の動きが瞬時に読めてくる。そして相手の攻撃を最小限かつ確実に打ち崩す攻撃が見えてくる。三体の悪魔は超戦士アトランティスの攻撃をかわすだけで精一杯だ。 -----更に早く、更に強く…、そしてこの島を天命を賭けて戦士として守り抜く!!  「そこだ!」  「くっ…!恐るべき怪物が…!!」  「あれが、LIMITEDの本当の姿…!!」  「気合だ!!」  「テッカマンアトランティス…、強い…!!」  纏達の声が響く。広志はうなづくとたぎるまでの闘志をむき出しにした。強大な力を他人のために用いると決心した彼には力におぼれこむことは考えにくい。光速でプルートゥめがけて豪腕で攻めかかる。その攻め方はあのオーブの名将軍・王騎に重なるかのように強烈だ。  「ヒロはどんなに苦しくても、奇跡を起こせる…。あれだけの強い想いがある限り…!!」  祈り続ける美紅に輝が語りかける。広志は苦しい相手でも決して最後まで逃げず、勝利してきた。ロンドン五輪で金メダルを取れたのもその精神力だが、それ以上に広志を強くさせているのは人々を守ろうとする強い心だった。ドルネロが輝に話す。  「一度剣を手にした以上、剣で人を断罪した者は剣によって断罪される宿命なのだろうな…。だが、あいつはそれも辞さない覚悟を持っている。強いぜ…、おめぇに似ていて、びた一文引かねぇ勇気を持っている…」  「俺が思ったことを口にする癖なのにヒロは慎重に行動する。だから、似ているんだけど異なる。あいつの戦いを今は信じるしかない…!!」  そしてタックと竜也が状況を分析している。  「竜也、ヒロはブラスターを使っていないのは確実だな」  「ああ、あれでLIMITEDレベルだそうだ。あたかもテッカマンが四体いるかのようだ…!!」  「あれが人類の新たなる進化系…、LIMITED…!!」  「いいぞ、頑張れ!!」  咆哮しながらプルートゥにプロディバイダーを振るう広志。プルートゥはランサーで受け止めるのが精一杯だ。暴走を懸念したタックが広志の猛攻を止めようと指示を出す。  『ヒロ、ここは奴らを撃退する事に留めるんだ!ブラスターフォーマットを受けた直後に無茶はダメだ!!』  「了解!タック、ボルテッカ放出は可能なのか!?」  『ボルテッカ放出で今の君の体力は限界だろう。一度ドラグーンを回収してボルテックエネルギーをチャージし、ドラグーンとボルテッカを同時に放つんだ!!ファイナルオーラバーストだと極限の反物質体の剣だから島の環境に大きな影響を与えてしまう!!』  「了解!ドラグーン、回収!!」  プルートゥから距離を取った広志は縦横無尽に飛び交っていたドラグーンを回収するとプロディバイダーを収納し、集中力を高めながら両腕のボルテッカ放出口を開放させながらドラグーンにエネルギーをチャージさせていく。その間は広志の動きを察知したタカヤ、シンヤ、ミユキが広志を守りながら三体の悪魔を苦しめる。広志の周囲に凄まじいエネルギーが集約されていく。そのエネルギーもどう見ても高次元の反物質体だ、ラダム兵やゾイガーが次々と呑まれて消えていく。対テッカマン戦の兵器・ファイナルオーラバーストを打ち出す剣エクスカリバーではなおさらだ。  広志の持つ類まれなき精神力が強化されたボルテッカをコントロール出来るのだ。戦慄する竜也。  「あんな強烈な攻撃…!!これじゃ正しく怪物じゃないか…!!」  「だけど、あんな怪物を生み出したのは俺達の欲望だ…!ヒロは今、もがき苦しみながらも自分に出来る事を精一杯に果たそうとしているんだ…!!」  息を飲む綾乃、美紅、海清。広志の気迫の表情が見えてくるかのようで震え上がる。広志の咆哮が大地に響き渡るかのようだ。 ------輝先生の気迫と似ている…!!  「しまった、まずい!!」  「引き上げましょう、プルートゥ様!」  「絶対に貴様らは逃さん!喰らえ、俺達の怒りを!!」 ------これが、今の俺のあらん限りの全て…!力を貸してくれ、セルゲイ!!  広志は心の奥にいるセルゲイに叫ぶ。セルゲイはうなづくと広志と一つになって重なっていく。更に二人の男が広志の中にオーバーラップして重なっていく。海清は驚きを隠せない。 ------光介が、あの子に…!!  「ボルテッカ!!」  広志の強い思いが乗り移ったドラグーンが再び三体の悪魔に情け容赦なく縦横無尽に襲いかかると同時に両腕から放たれた三本の光の渦が螺旋を描くかのように残ったラダム兵を飲み込むと完膚なきまでに消滅させていく。相当なダメージを与えたのは明らかだった。ダメージを受けたプルートゥがバタフライ、ホレスに退却を指示する。  「クソッ、退却だ!」  「待て、お前達!俺が相手だ!!」  タカヤが襲いかかろうとするがプルートゥらはブースターの出力を一気に解放させて一気に逃げていく。シンヤが苦々しい表情で言う。  「クッ、相変わらず逃げ足の早いずる賢い奴らめ!姑息な…!!」  「仕方がないわよ、シンヤお兄ちゃん」  「加勢していただき、助かりました…。ハァハァ…」  「君の活躍は叔父である相羽直人から知っている。俺は相羽タカヤだ、凄かったな…」  「とにかく、ヒロ君を診てもらわないと…」  「ミユキの言うとおりだな…」  シンヤが広志の肩を抱えると地上に降りるよう促す。  「試運転にしては上出来だったのかな…」  『むしろやりすぎだったな、ヒロ。だけど、君が無事で何よりだ』  「タック…」  『君達相羽三兄弟にも助けられた。ありがとう…』  竜也の声がする。タカヤが笑って答える。  「こんなデンジャラスな戦い方で助かったかな?」  『確か君は四国でDボウイと言われているようだけど、Dはデンジャラスじゃない。ドリームじゃないか』  タックのフォローにタカヤは戸惑う。そんなタカヤにシンヤが突っ込む。  「カッコつけても本質は変わらないんだよ、タカヤ兄さん」  「参ったな…。とにかく、今はみんなのもとに戻ろう。よく頑張ったな…」  「テックセット解除!」  三体の悪魔を何とか退けた広志はヘトヘトの表情で相羽三兄弟に支えられて戻ってきた。  海清を先頭にした住民達が頭を下げようとする。しかし、広志は海清を見ると即座に土下座した。驚いて駆けつける輝、美紅。  「ヒロ!」  「あなたの最愛の夫をイムソムニアが奪った原因は全てこの俺にあります。土下座して許されるものではすまない罪ですが、せめてそうさせてください。あなたに殺される覚悟はあります」  「あれはヒロのせいじゃない、イムソムニアの欲望が招いたものじゃないか!」  「輝先生は黙っていてくれませんか、これは俺とあなたのご母堂の問題じゃないですか!!」  「ヒロ…!!」  美紅が思わず涙ぐむ。そして綾乃が広志を起こそうとする。戸惑う海清にドルネロが説明する。  「こいつはあの闘将セルゲイ・ルドルフ・アイヴァンフォーの遺伝子を組み込まれて試験管で生み出され、遺伝子操作までされた。そして生みの親はあの天下航空の墜落事故で殺されてしまった。人間らしい生活をさせたいとばかりにこいつをイムソムニアから取り戻したばかりにな…。こいつも、イムソムニアの被害者なんだ…」  「俺は被害者なんかじゃない、加害者も同然なのに…!!」  「そこまで自分に罪悪感を…!だから、あれだけ危険な戦い方を重ねてきたというのか…!!」  竜也は愕然とする。普段はみんなに気を配るしっかりした性格も、そうした悲しい過去を背負って生きてきた事を知って広志の苦悩を分かったのだ…。タックが悲しそうにつぶやく。  「ヒロ、君は孤独だったんだな…。それを抱えながらも決して明かさなかった…。だけど、あの命のタイムリミットで君は自分と向き合ったんだな…」  「人は哀しみを抱えて、それをどうやって乗り越えるかが問われるものだ…。こいつはおめぇらも驚く怪物だぜ…。自分の悲しみを封じ込めて、おめぇらの為に戦うとは…。俺にも真似できねぇ…」  「ドルネロ…」  住民の中から聞こえるすすり泣き。だが、何よりも辛い想いと悲壮感を抱えていたのは広志だったのだ。周囲を沈黙が支配する。  「高野君…。真実を知ってからあなたは罪悪感に苦しんで来たのですね…」  「…」  「それでも、私達を守ろうとあれだけ過酷なまでに戦うとは誰も真似できません…」  「まさか…、許してくれるというのですか…」  「私もあなたの味方です。あなたが与えられた力を正しく使うと誓うのなら…」  戸惑う広志に手を差し出す海清。広志の眼差しに見える涙。その涙が地面に零れ落ちる。どれだけ苦しんでいたのだろうか…。それは初めてみんなに見せた弱みだった…。普段の緊迫感に満ちた激しいまでの闘争心をむき出しにして戦う広志とは違う。涙交じりの声で広志は答える。堰を切ったかのような涙が流れ落ちる。  「誓い…ます…。絶対…に、その想い…を踏み…にじらない…事を…、そして、光介…先生の…分だけ…あなたを…支えると…!!」  「ヒロ…、お前は一人なんかじゃない、みんなが一緒なんだ。忘れるな、これからは無理はしなくていいんだ」  「あなたまで戦いの世界に巻き込んでしまって、ごめんなさい…、輝…」  海清の目からも涙がこぼれる。戸惑う輝。  「かあ…!?」  「そうだ、おめぇの母親じゃねぇか、呼んでやれよ、母さんと」  ドルネロが輝に声をかける。綾乃もさりげなく輝の背中を押す。震える輝に美紅が声をかける。  「我慢しなくていいんです。ずっと辛い思いを抱えてきたなら、ヒロみたいに解き放ってもいいじゃないですか」  「母さん…!!」  「輝…」  何もかもが輝の中で崩れてしまう。輝は海清を抱きしめて泣き崩れる。綾乃が二人を抱きしめるようにして泣き、広志はドルネロと竜也に抱えられる。美紅が涙を流す。  「おめぇ、さらに一回り強くなったな…。孤独感にああまで戦うとは…。おめぇの強さ、見習いたいほどだぜ…。本当のおめぇを俺達は誇りに思うぜ…」  「ドルネロ…」  「俺達はお前を最後まで支える。だから、諦めるな。俺達はヒロの仲間なんだから。お前に起きていることをそのまま受け入れるし、今まで通り助けてもらうさ」  「竜也さん…」  「俺達は素顔のお前と共に戦う。だから『英雄』だの、様々な言葉に振り回されるな。俺達はお前を信じるって決めたんだ!」  4 あきらめない希望  「そうか…、ぶっつけ本番で成功したか…」  蓮の元に輝から電話があったのはその1時間後だった。  「一週間島で休むようにします。ヒロは休まないといけないですから」  「俺も同感だ。輝先生、しっかり頼む。あいつは黙っていてもトレーニングもするし、勉強もする。あいつに無理はさせるとまずい。それと母君とは?」  「ヒロのおかげですよ。あいつの戦う姿で分かったんです、思い続けているって」  「そうだ、俺もヒロの気持ちは分かる。俺達の場合は魁兄ぃが親父代わりになったが…」  「だけど、ブラスター化だと気休め同然ですよ」  「確かに…。この一週間であいつの武器を見直すよう動いている。高性能のシステムに置き換えることになる」  「それと、母に代わります」  「それはいい。今度島に向かった際に俺も詫びなければならない」  「すみません。あとは…」  「テッカマンチームについては問題はないさ。ゆっくり休むよう言ってくれ」 ----親父、ヒロに力を貸してくれたんだな…。ありがとう…  電話を切った蓮は無言で父・四宮凱の遺影に水を捧げる。初老の男がそれをみて声をかける。  「彼のことか、蓮くん」  「勇さん、その通りです。彼は我々の想像を超えた怪物に成長しつつありますね」  小津勇は静かにうなづく。  「彼の背中はさらに大きくなりつつある。彼が走り続ける限り、希望は止まらないはずだ」  「だけど、あいつは自分を許していない…。罪を抱えて生きると誓って…!!」  「そうだ…。彼の戦いの中に守りたい存在は自分の命は含めていない、徹底した自己犠牲を貫いている…」  「ヒロと俺は、実の父親の思い出があるかないかで違うのかもしれませんね…」  「アルバムを見ても思い出すらない孤独か…。辛いものだな…」  勇は魁から広志が死も辞さない壮絶な覚悟を固めたことを聞いていた。広志の戸籍上の父親は宇宙飛行士だった圭介、実の母親は外科医だったみどりだった。  「だが、血縁よりも強いものは絆…。彼はいつになれば分かるのか…」  「いや、分かっているんでしょう。だからこそ、彼は失うことを恐れているのかもしれません。だから、激しく戦うんじゃないですか」  「だが、これからが本当の戦いの始まりになる…。出来る限りの力を私も貸さねばならない…」  「同感です、俺も全てを尽くすと約束しましょう」  その頃…。  「やるぜ、高野広志…」  「桑田、お前あいつをなんと思うんだ」  「岩瀬、あいつは怪物だぜ。俺と同じ匂いを感じてくる。だが、あいつの戦い方には何か悲壮感か、切羽づまったものを感じるがな…」  「そこまで見抜くとはお前も相当な怪物だのだ。滾る闘争心のお前も嫉妬したのか」  「まあな、サルサ」  福助はにやりとするとクリスタルを取り出す。  「まあ、今回は高野広志の実力をしっかり見せてもらった。次回はあいつに負けないからな」  「桑田くん、負けず嫌いだものね」  「まあな」  藤枝絵里ににやりとすると福助はトレンチコートを羽織ると部屋を後にしようとした。そのときだ、ばたばたと慌てた表情で姉妹が駆け込んでくる。  「お姉ちゃん、福助に伝えなくちゃ…」  「おい、何があったんだ!!」  「テッカマンアトランティスがブラスター化したってことよ。その原因がデザイナーチルドレンの副作用だってことなのよ」  「ブラスター化!?一体これはどういうわけだ!!」  驚く福助。北原美也は福助の切羽づまった表情に驚きながら話す。  「老化が止められない状況なのよ、彼は!このままじゃ彼は死んでしまうわ!!」  「俺も強くならなくちゃ…!!力が、人々を一人でも多く救う力が欲しい…!!」  「焦るな!お前にできる戦い方があるはずだ!!」  「マスター!」  直人は厳しい表情で叱り飛ばす。  「だが、イムソムニアは更に強くなっています。奴らを打ち砕くには俺が更に強くなるしかありません!」  「力よりも連携プレーにこだわれ、福助!お前には指揮官としての才能があるんだ!!」  「だけど、その中で絶対的な個がなければまとめられません!」  「そんなことはない、まとめながら信頼を勝ち取っていけばいい。力は自ずとついてくるはずだ。お前には人としての強い思いがある。高野広志は今まで感情を出さず、叱咤激励はするものの自らに犠牲を集中させる孤高の戦いそのものだった。お前は仲間と共に戦えるはずだ、そこがお前の強みではないか。お前は絆を大切にしている男だからだ」  「仲間…!!」  「そう…、あなたも輝と似ているのね…」  「そうですね…、香澄母さんのおかげで、ここまでたどり着いたようなものですよ」  広志は海清と台所に立っていた。輝は光介と死別した後、叔母の蓑輪朱鷺子に育てられていた。広志の場合は両親を失った後はセルゲイの戦友だった久住智史・香澄夫妻に引き取られていた。それもあって輝とは仲がよかった。広志が美紅にあまり頭が上がらないのもおそらくは輝と綾乃の関係に等しいからなのだろうと周囲は見ていた。  「あなた、料理もこなせるのね。確か…」  「五輪の強化合宿でよく作らされました。怒られて怒られて…」  「でも、包丁こなしは上手いわね」  「偶然ですよ、それは」  「君は自分を故意にごまかしているな」  タックが広志に突っ込む。  「タック!!」  「タックって言うの?」  「はい、タックは俺達のサポートをしてくれています。今回の戦闘でも相羽三兄弟やタックのナビゲートがなかったら俺では勝てませんでした。今でも剣を振るうことが怖いと思いますよ…」  「僕はたまたま運が良かっただけだ。君の能力だ」  「あなたも苦しい立場じゃない…、命を背負う立場だなんて…」  「それを言ってしまうと俺はいけませんよ、今は。誰もが同じ立場になれば抱えるものなんです」  そういうと広志は話を変える。  「四宮家をどう思いますか?」  「あの人たち?龍奉さんがこの前この島に渡って私に謝ってきたのよ」  「何故!?」  「「ワシたちのくだらない内輪揉めのせいで最愛のご主人の命を奪ってしまった」と言って土下座で…」  「そのときどうしたのですか」  「私は気にしていなかったのよ、あの人は医療現場で殉職したのだから…。ただ、もっと医療現場で活躍したかったのでしょうけどね…」  「巻き込んだ事を気にしていたのは俺ばかりじゃなかったんですね…。おそらく凱さんを失ったことで罪悪感をあなたに対して抱えていたのでしょう…」  四宮龍奉は四瑛会の建て直しに尽力し、引退することになっていた。おそらく、彼の理想を受け継ぐ「医術は仁術」を体現する会長が選ばれるだろうと広志は見ていた。  「上手な包丁捌きじゃない。刺身がここまでできるとは…」  「行きましょう、みんなが待っていますよ」  広志は朗らかな笑みを浮かべる。海清はセルゲイの写真を見てその面影を思い出す。  「遅くなってすみません、できました」  「繊細な包丁さばきだな、ヒロ」  竜也が驚きを見せる。輝は広志の刺身の包丁さばきに感心している。  「剣を包丁に変えても上手いな…」  「輝、おめぇやヒロはまだいいほうだぜ…。俺なんか、実の母親に見捨てられてしまってな…。金ができたら、その母親を金で買い取ったほどだ…」  「ありえない!」  「信じられません…」  纏が驚く。それは竜也や綾乃も美紅も同感だ。  「だが、いくら金をつぎ込んでも心の中にぽっかり空いちまった穴なんか絶対に埋めたせねぇものだし、虚しさしかこみ上げねぇもんだよ…。だろ、海清さん」  「同感ですわ…。まさか、あの「レーベン」を中古とは言え購入して寄付する約束をするなんて…」  「この島を医療で元気にするのも、一ついいじゃねぇかと思ってな…。おめぇさんだけで戦っているわけじゃねぇ、みんなで支えるって約束してくれればなおさらだ。まあ俺はもっとも、喧嘩は嫌でな。喧嘩をしても一銭の得にもならねぇがな」  「確かにそうですね。俺も同感です」  「ドルネロにあるのは、金儲けもそうだが、感謝されることへの喜びだな、竜也」  タックが竜也の左肩に止まる。  「ああ…。相羽三兄弟も分かっているだろう」  「最初、僕はラムダの強大な力に戸惑った。だけど、その力を平和のために使うことで、感謝される喜びを知った。タカヤ兄さんはそれを本能で知っているけどね」  「いや、俺は偶然だ。シンヤは努力家だから、一度身についたら滅多に失敗しない。強いのはシンヤなんだ」  「私達相羽兄弟は母親を病気で亡くしているから、失うことの辛さはよく分かるのよ…」  「タカヤさん、ブラスター化して戦うってことは…」  「俺達の場合は問題はないんだ。だが、多用すれば確実に神経系にダメージが集中し、記憶がなくなってしまう危険性があり、最悪の場合は死ぬ。あくまでも俺達は最後の切り札なんだ。君の場合はやむを得ないが、無理はするな。命が大切なんだから」  「そうだ、君の言うとおりだ」  広志は輝にビールのお酌を行う。輝も綾乃も酒豪と来ている、だからあの蓮ですらも酔いつぶれてしまう。ドルネロは渋い表情で綾乃の注ぐビールに応じている。  「ヒロが成人になったら、飲めそうだな」  「俺は苦手ですよ、タバコですらも」  「ヒロに無理はできませんよ、今の状態じゃ。テル先生」  「分かってるさ、冗談冗談」  「だが、おめぇには生きてもらわなくちゃな…。おめぇは運命に翻弄されながらも他人の悲しみや苦悩を抱え込み、人の幸せを祈るからな…。そういう人間には幸せな生涯があって当然だぜ」  ドルネロが広志の肩をたたく。  「そんな広い人間じゃないですよ、俺は」  「だけど、大きくなっていくような印象を受ける。最初であったときからさらにスケールが大きくなっているんだ。話を聞いてすぐに動いたのも経験故なのかもしれないが…」  「僕もそう思う。ヒロは持病と向き合った結果、さらに強くなった。本当の力を見せようとがむしゃらになった。だけど、それは時と場合によりけりだ」  広志は輝の写る写真を見つめている。  「あの方があなたのご主人…。輝先生から話は伺いましたが器が大きい人でしたね…」  「今でも光介を尊敬しているのよ、ヒロくん」  「いい顔をしていますね…。一度会いたかったな…」  「明日、研修生がここに戻ってくるのよ。彼にも輝と一緒にあなたの検査を手伝ってもらわなくちゃ…」  「すみません…。あなたには世話になりっぱなしで…」  そのときだ、玄関の呼び鈴が鳴り響く。  「すみません、毒島です」  「えっ、早く帰ってきたの!?」  驚いて海清が玄関に向かう。そして中に入ってきたのは肩まで髪の毛のかかったワイルドな表情の男である。広志の顔を見て戸惑う。広志が挨拶する。  「はじめまして、高野広志です」  「俺、毒島というんだ。大学のテストが終わったのでなっちゃんに会いたくなってここまで戻ってきたんだ。ひょっとしてあのロンドン五輪の金メダリストか。俺達の恩人だ!」  毒島嵐は照れながら話す。  「そうよ、明日あなたにも彼の検査を手伝ってもらわなくちゃ…」  「なっちゃん、どうですか。海清センセイ、あいつは准看護師になったそうじゃないですか。俺は焦っていますよ」  「大丈夫よ、あなたなら確実な技術があるわよ」  「君はお医者さんを目指しているのか」  「そうですね、俺が目指すのは海清先生のような医者ですよ。輝先生の話は蓮先生から聞きました。なおさら俺も医者になりたいと思いましたよ。今は科学アカデミアの医学部で4年にいます」  「すごいな…」  嵐は輝、広志と握手を交わす。小さい頃から嵐は諦めない性格だった。その根性は島を離れてゼーラ中のエリートを集めたトップレベルの学校であるゼーラ王室アカデミー付属高校に進学した際にも発揮され、主席卒業を果たして科学アカデミアの医学部に進学するまでになっていた。かつてのガキ大将がここまでエリートになったことは島の人たちの誇りでもあった。  「あの科学アカデミアに進学!?すごい…!!」  「輝先生ほどじゃないですよ、俺は。あらん限りの全てを賭けて命を救えるだけの力があるほうがすごいじゃないですか」  そして三人が入ってくる。  「ここにいたのか、輝!」  「ケビン先生!」  そう、ヴァルハラで普段は診察を引き受けているケビン・ゼッターランド久坂が二人の女性と一緒に来ていた。輝の驚きの声に嵐が話す。  「ケビン先生は俺の尊敬する恩師の一人です。病気のことについて詳しく教えてくれたりして助かります。海清先生と同じようなゴットハンドです。いつか追い越したい人たちですよ」  「嵐くん!」  「なっちゃん、すげえな…、ケビン先生から話は聞いていたけど…」  輝と綾乃は嵐となっちゃんと言われている女性との間柄を見抜く。嵐と彼女は抱き合って再会を喜んでいる。  「彼女と嵐君がこんな間柄とはな…、妹尾さん」  「でも、嵐君ならいいとは思いますけどね。この子は小さいときからよく気が利く子でしたから」  「俺は科学アカデミアに進学が決まった際に告白して、交際しています」  恥ずかしそうに嵐はいう。嵐はエリートなのだが、ちっともエリートらしかぬざっくばらんな性格だった。  一方、小坂は…。  「タイスよ、いよいよあの計画を実施に移すぞ…」  「遺伝子による新たな人類支配…。ようやく動くのですな…」  二人がニヤリと笑う。そこにはノートがある、『創世主救済計画』と書かれており、α(支配層)、β(エリートクラス、LIMITED)のピラミッドの下層部にγ(ガンマ)、δ(デルタ)、ε(イプシロン)、下層部と区別されている。  この計画の詳細はやがてアジア戦争最後の戦いで全貌が明らかになる。おぞましい新世界の幕開けを彼らは夢見ていたのだった…。  「しかし、奴が命の危機に躊躇う事なく禁断の世界に足を踏み入れるとは…」  「ブラスター化…。侮れない男だ…」  「しかし、奴の周囲にはエリートが揃っているようですがなかなか付け入る事はできませんな…」  「奴はいわば太陽のような存在、決して侮れない…」  「奴は恐るべき怪物になりつつありますぜ…」  「キアス!」  「奴はブラスター化を一度も使わずに撃退してきました。奴は侮れません」  「セルゲイの遺伝子を継いだ男か…」  「だが、確実にブラスター化した以上、侵略計画もピッチを上げねばならない…」  「今度四国に来てくれないか。もう少しでイムソムニアの勢力は追い出せる。お前の力が今こそ必要なんだ」  「そこに人々が平和を求めんと欲する限り、許可を頂ければ喜んで向かいましょう」  広志とタカヤが握手を交わす。  「待っているぜ。タケルも頑張ろうと戦っているんだ」  「また会いましょうね、海清さん」  「ミユキちゃんもね」  「この島が気に入ったね、タカヤ兄さん」  「ああ…、アキやジュエル、ケンゴ兄さんやみんなを連れてここに遊びに行こう、戦いが終わったらな…」  タカヤはシンヤに笑うと輝、綾乃、竜也、ドルネロ、纏、ケビンと次々と握手を交わす。広志はこの島でトレーニングをしながら、輝の作った治療プログラムにしたがって治療を進めていく計画を立てていた。  「お前と今度会うとき、元気なお前と出会いたい」  「ええ…、元に戻すよう頑張りますよ。この坂道が、俺のトレーニングになりますよ…」 -----ひとりでも多くの人を救わなくちゃダメだ…!!その為なら強くなる…!!   「ヒロ、この坂道がお前を強くするんだな…」  「もちろん、そう来なくちゃ!」  「今のヒロは今までと違って、弱さを見つめているんだ。その弱さを認めて、強くなろうとしている…。羨ましいな…」  輝は眩しそうな表情で広志に話す。  「まだ輝先生だって強くなれますよ、信じていますよ。守りたい存在がある限り…」  「その手を離すんじゃねぇよ」  ドルネロに言われて顔を赤らめる輝と綾乃。ケビンは輝の肩を叩きながら話す。  「俺は目の前で母を失った。だから、お前の痛みはよく分かった。あの光介を失ったことを知って俺は光介の分だけ助けなければと思ったんだ…」  「それで心筋梗塞になっても…!!」  「それぐらいの覚悟がなければ命と向きあえまい…。馬鹿だろと言われてもな…」  「正直にいえば、会いたいんでしょう」  「まあな。だが、ないものねだりだろう。心筋梗塞になったからこそ、出来る医療がある。俺がこの国に来たのは母の母国ということもあるが、光介や潤司と同じ病院で働きたかっただけさ。ルイーザも分かってくれたし、子供たちも俺の後を追いかけて医師になろうとしている…」  「ケビン先生、アヤセのオペの助手になるって言ったのはそういうことだったんですか…」  「まあな。竜也、俺は二度真東一族に命を救われた。一度目は光介と潤司に、二度目は輝にな。いずれも手術の痕は残っていない。すごいものだ」  「ケビン先生、無理をしすぎです。僕でも無茶だとわかります」  「タック、目の前で病気と戦っている患者さん相手に手をこまねいているのは医師としていかがなものか。俺はそんなことは出来やしないんだ。それに、男達の夢の城は守り抜きたいんだ…」  ケビンは経営に関してそれほど頭がいいわけではないという。しかし、その腕はグレートファイブの中で随一優れたものだった。   5 そして、今…!!  「あら、ヒロさんじゃないですか」  「久しぶりです。偶然通りがかったわけですが…」  広志に声をかけた女性。  彼女はカフェ・リンドバーク本社で開発部部長を務めている熊谷遊里である。  「彼女たちは?」  「新聞記者ですよ。熊谷遊里、カフェ・リンドバーグの開発部部長にして取締役だ」  「松永さとみです。妹のみかげと取材中です」  「あら、中座しないと」  「いいんですよ。おおまかな話は聞いています」  みかげが話す。嵐に関して疑問に感じていたさとみが聞く。  「ちなみに嵐さんって、今はどこにいるんですか」  「科学アカデミアで助教を務めているんだ。外科医としても優秀で、夏休みに故郷の羽鳥島で師匠として慕っている海清さんのお手伝いをしているんだ。白血病に精通していて、世界中から治療を受けるべく入院している患者さんの治療をしながらの指導なので大変だそうだ。ちなみに羽鳥島に准看護師を務めている奥さんの実家もあるし、単身赴任だから二週間に一度は必ず里帰りしているんだ。エリートなのにちっともエリートらしかぬ気さくさでみんなから慕われているさ」  「それで真東先生は毒島さんを認めていたんですね…!!」  「強大な力にはそれに伴う責任が生まれる。私は逃げるわけにはいかない。あの四宮凱とても、改革を行おうとして一度は挫折したがフランスで腕を磨き、真東光介も認める引けをとらないゴッドハンドになっていたが生前力任せの医療を嫌悪していた。日本国内で腕を磨いた伊野治、アメリカで光介をホームステイさせて、それと引き換えに自身の腕を磨いていったケビン・ゼッターランド久坂、その盟友でもある安田潤司も力の怖さを知っている」  広志は厳しい表情でみかげとさとみに話す。  「高野CEOは多くの壮絶な経験を重ねてきた方や。やるせない事も何度も抱えて戦ってきたんやで。そんなCEOからGINに招かれはったら俺とても応じないわけがあらへん」  「陣内さん…」  「さとみはん、俺の事が記事に出来へん理由がこれで分かったやろ?まあ、今は言えへんが、時期がきたら真っ先にさとみはんに話すで。これは男の約束や」  陣内は笑うとさとみに握手を求める。さとみはうなづくと言う。  「私は諦めませんから」  「それでええんよ。ジャーナリストは嫌われてナンボや。権力者に嫌われたら一人前や。君はいい意味でしつこくて俺は苦手やで」  「そう言われてジャーナリストとして誇りに思います」  「私も陣内に同感だ。君達は権力者にびた一文引かない強い勇気を持っている。自身を持て」  「その意識を喪黒福造が持てばいいのに…」  「確かにな…」  広志はため息をつく。  その喪黒は…。  「私の政策公約、規制緩和の一環といたしまして、携帯電話の回線網を国内外の企業に開放させていただきたく提案申し上げます」  「賛成!」  喪黒の演説にもはや大政翼賛会同然となった壬生国議会はただただ拍手の連続だ。野党は呆れかえった表情で演説を見ている。しかも、電波はほとんど喪黒の息のかかった事業家が買いあさった。もはやテレビ局はもちろん新聞も大政翼賛会の関連団体同様だ。批判者はマードックが買い叩いた最大の広告代理店・電創によって潰されている。これで多くの人々が地下に隠れこんでしまった。  「何という最悪…」  ゆやは悔しさのあまり拳を握り締める。鎮明は苦々しい表情だ。彼らは議員ではないので、国会を見学するしか方法はないのだ…。  「朔夜はんも困った表情ですなぁ」  「私達の母国が侵略者のために荒らされるのはつらいものです…」  「まあ、俺達もいる。俺達は巻き込まれてしまった以上、けりをつけてやる」  スティング・オーグレーが言う。ルナマリア・ホーク、アウル・ニーダ、マユ・アスカも強くうなづく。彼らはオーブ軍から派遣国会議員制度を学ぶべく壬生国を訪れていたときに巻き込まれたのだ。  「何とかしてでもゲリラ活動を強化しなければ…」  「だが、喪黒は次の手を打っているはずだ、悪い予感がする…」  アウルは焦りの表情のマユにつぶやく。  その2日後…。  「そうか…。やはりエズフィトは泥沼化しているのか…」  オーブ宮殿では、憂鬱な表情でキラが閣僚会議を招集していた。手元の新聞にはエズフィトの内戦が沈静化するばかりか、ゲリラ組織のアイアンエンジェルスの支配地域が増えてきているという報道だ。しかも支援メンバーがどんどん増えてきているというのだ。  「私もアメリカの失敗は必至だと警告しました。あのベネットは強硬姿勢を取ってしまい、エズフィトの民を甘く見ています。壬生国は喪黒のプライベートステートメント(私物化国家)になっているのを、エズフィト市民はしっかり見ています。彼らは反発しているではありませんか。このままでは反米感情が強まるだけです」  「それは承知だ、ジブリールよ。今必要なのは我々はどういう風にエズフィトの独立を回復させるかを考えるのであって、武力による支援は不本意だ。だが今はやむを得ない、手段は選べまい」  厳しい表情でギルバート・デュランダル議長がロード・ジブリール首相と話す。ジブリールはどちらかというと親米派なのだが、今回のアメリカの暴挙に憤慨しており、外交での支援を行うよう真っ先に助言したのだ。  「国王の権限はあくまでも国家の機能の一つ。まず僕たちはアメリカへの働きかけを強化することにしよう」  「そうですな。私もそれに賛成します。それと、エズフィトの亡命政府への支援も強化しましょう」  「アズラエル大臣、あなたには迷惑を掛けて申し訳ありません」  「何をおっしゃられますか、国王陛下。ネイロス市長一家ぐらい庇うのは私もできますよ」  ムルタ・アズラエル厚生労働相は平然と言ってのける。サイ・アーガイル外相が言う。  「とにかく大切なのは、アメリカ国内の反戦運動をどう盛り上げるかだ。それにしても、あの喪黒は忌々しい…!!」  「俺もあいつの顔を見るだけで腹が立ってくる…。マユやアウル、スティングやルナはあいつの暴政に巻き込まれた…!!」  今や国王補佐になったシン・アスカが憤りを隠さない。シンはオーブ屈指の対米強硬派である。それはオーブがアメリカに一時期支配されていたときに彼の両親をアメリカに奪われたことにあった。それは彼の妹であり、セイラン家の継承者になることが決まったアウルの許嫁であるマユ、スティング、そしてシンの最愛の人であるステラ国王補佐夫人も同じだった。10年前のアジア戦争で自身もテッカマンディスティニーとして戦ったこともあり戦争を心から嫌っていた。  「シン、君の怒りは僕もよく分かる。だが国王は国家第一の下僕であって、国民の声の代表者である議会に国王の権限はゆだねられている。国家・国民と共にオーブ王室は歩む運命だ」  「ええ、兄上の言うとおりです。俺はオーブという国の第二の下僕ですから」  「そういうことだね。僕はあなた方にゆだねよう」  「オーブの国兄であるあのお方も懸念されていられたそうですな」  「彼ならなおさらだね…。彼はアメリカに留学し、アメリカの問題を熟知した上でスコットランド国家顧問も務めたからね…」  「彼も困惑しておられたようですわね…」  ラクス王妃が困惑した表情だ。高野広志の婚約者である久住美紅とは深い友情で結ばれており、広志の困惑を彼女から通して知っていた。  彼らが言う国兄とは、あの広志である。10年前のアジア戦争で、オーブは一度国家を奪われたが、広志が先頭に立って国家を取り戻したばかりか、テロリスト集団イムソムニアを倒した。その功績はオーブの英雄といわれるほどであった。それ故に国に独立の光を取り戻した男、つまり国兄という称号をオーブ議会は全会一致で与え、国事行為以外の特権を終身にわたって与えたのだった。広志は最初戸惑ったがデュランダル、キラの説得に称号を受け入れた。  「我らが国王にハウメアのご加護を。そして我らが国兄にもハウメアのご加護を!」  一方、同じ時間に…。  東京の関東連合議会では、あのギレン・ザビ議長が議会を招集していた。  「今回の決議はアメリカを支援することが我が関東連合の利益につながる事への証である。我々はエズフィトにおける危険なテロリストを取り締まるべく、支援を開始する。よって、アイヌモシリ自治共和国、オーブやゼーラに対して支援を要請する。壬生国の喪黒政権への支持も同時に表明する。彼らとの組織共通化は我が国の国益につながるからだ」  過激極まりないギレンの演説だ。これが独立心に強い彼らの激怒を買うのは目に見えているのだ。呆れた表情のガルマ・ザビとアムロ・レイ、シャア・アズナブル。小林勇人がアムロに耳打ちする。  「アムロ、とうとう暴走が始まったな…」  「なんだかまずすぎる話だな」  「兄は気がついていないのだろうか…。自分がマリオネットになっていることに…」  「いや、あえて演じているのかもしれないがな。君の義父、エッシェンバッハ市長も指摘してたがな」  「ああ…、この事は同時に私達の結束力が問われる」  「俺はジオン党への離党届を用意することにしたよ。この状況では、間違いなくジオン党は滅びる」  「ギアス連合会へ合流するつもりか」  「ああ、そうするしか選択肢はなさそうだ。我が義父と私は当面の間協調体制を組むことにしたよ」  「俺達は様子を見る。ギアス連合会を水面下で支援することも約束する」  そうした彼らのひそひそ話を無視するかのようにギレンの演説はようやく終わる。  「では、決議の可決を問うが、異議ある者はいるだろうか」  「異議あり!」  その声に議会は思わず動揺した。鋭い表情の男が立ち上がって反対したのだ。  「ドズル・ザビ…!!」  隣に座っていたブライト・ノア議員は驚く。ドズルは関東連合陸軍元帥であり、どちらかというとタカ派だ。だがその彼が反対したのには驚いた。二人は政治的な信条は違うが、ギレンの暴走に懸念を持っていた事もあり、アムロ達に近い立場だった。  「ブライト、ここは俺に任せてくれないか。アメリカが日本に対して行っているのは明白な内政干渉だ。エズフィトの市民はアメリカの侵略戦争に反対し、闘っているにしかすぎない。もし、この無益な戦争に荷担してしまえば我々もエズフィト市民から反感を買ってしまう。そうすることは我が国家にとって不利益になる。また、喪黒福造首相の統治体制は「改革」としているが、その実態は私物化でしかない。そんな国家に支援を行うのは我が国家の利益を損ねるだけであり、故に反対だ」  「議会の一員ではない陸軍元帥の意見は参考にならない。黙れ」  「議長、あなたは確かにこの国の歪んだ財政を元に戻した。それは我々も大いに評価したい。だが、この国は今その政策の為にどれだけ苦しんでいるのかご存じか。市民は徴税に苦しんでいるではないか。壬生国に同じ状況を持ち込まんとしているあなたの姿勢は今後大いなるツケを残すことになる。よって反対だ、それよりも国民に余分な利益を返還すべきである」  「退場を言い渡す!」  「ふん…、最後まで警告を甘く見るとは…。だが、言わせてもらおう、国家はあなたの玩具ではない。あくまでも国民のものであるということを。その事を甘く見ているあなたには失望した」  そういうとドズルは悠然と議会を去っていく。記者席では…。  ネットノートに必死になってメモを取りながらみかげはスマートフォンを見ていた。そこへもう一つの携帯電話にメールが入る。 ----もう、またしても黄色い馬!?  焦りの表情でメモを取る。そこへ二人の男が入ってくる。  「大変だな、お前の相棒は」  「山岡デスク…」  男は山岡士郎と東西新聞の社会部記者でもある飛澤である。  「メモはどうなっているんだ」  「飛澤さん、メモはここまで出来ました。演説については全て押さえました」  「そうか…。ドズル・ザビとの記者会見は俺が引き受けるよ、松永はあの黄色い馬に専念してくれ」  「大丈夫なんですか!?壬生国の混乱もあるんですよ」  「大丈夫だ、黄色い馬の問題と壬生国、そして関東連合の混乱は一つになって出てくる。俺達の判断ミスだったんだ」  飛澤は済まなさそうにわびる。  「黄色い馬中毒を追いかけている警察官の自宅に盗聴器が最近仕掛けられている。それで、最悪の場合は借金まで買い取られて返済を迫られる恐喝事件が多発している。この事件も、何かある…」  「そして、CP9製薬の社長と喪黒のつながり…。これも恐ろしいことになると見ています…」  「なおさら、松永には黄色い馬の事件に専念した方がいい。それと、警備もつけておくことにした」  士郎はそういう、というのは士郎と広志は情報を交換している間柄なのだ。  そして川崎では…。  鋭い目つきの男が広志と対峙していた。  「東郷さん、今回の任務はミキストリへの牽制、そして壬生国の喪黒福造の身柄確保もしくは壬生国の治安回復です」  「なるほど、その任務か…。引き受けるが、お前はこの任務のリスクが大きいことを知っているな」  デューク東郷が聞いてくる。というのはGINでフリーランスのスナイパーとして彼は所属しており、世界中の戦争地帯におもむき和解交渉をおこないつつ、戦争の原因を絶つ実力行使もしていた経験から東郷は人の心は容易に操れないと言うことを知っていた。  「分かっています。結局、喪黒が選ばれたことに変わりはないのです。問題は、その中で彼が不正を行っていたこと、そして彼の資金にマフィアが絡んでいること、そして選ばれる過程で多くの企業を買収して圧力を掛ける極めて卑劣な手段を執ったことでしょう。その結果の私物化行政は認められません」  「承知の上だ。俺とお前の間柄だ、出来高払いで引き受ける」  「了解です。ウルキオラ、東郷さんの行動の手助けを頼む」  「かしこまりました」  ウラキオラ・シファーは東郷につきそう。  「すまない、いつもお前にはうるさい注文をするが、今回もそうなる」  「我らがCEOは犠牲者を最小限にすることが基本だ、当然のことだ」  「ウラキオラ、内偵捜査はどうだ」  「すでに喪黒の内情をウルフライから聞き出しました。彼は相当怒っていました」  「彼にとっては尊敬する先輩の娘さんが傷つけられたことが腹立たしかったのだろう…。それと、デジキャピの内部はどうだ」  「ちょっと小汚いことをしたようです。まあ、証券取引法には違反していないそうですが」  あの中込威率いるデジタルキャピタルが、会社更生法を申請して倒産したあすか証券のスポンサーになって経営再建に乗り出すことになったのだが、税務当局と協調してGINも情報を集めていた。中込が過去休眠会社を使って脱税をしていたことが分かったがその事は指摘前に自主申告して、訂正申告をすませた。その上自分から検査を要請してきたので調査したがそれ以外に問題はないということだった。  「だが、喪黒の無能さには呆れ果てる…」  「彼の失言で中堅の銀行が倒産して、またしてもリブゲートの金融部門会社が受け皿銀行を立ち上げて即日認可だ。いやはや、情けない…」  かつての日本、昭和恐慌の際に東京渡辺銀行という余りにも放漫経営が続いた銀行があったが1927年3月14日に国会で片岡直温大蔵大臣が「東京渡辺銀行がとうとう破綻を致しました」と失言。これを口実に銀行は休業を決断する。姉妹行のあかぢ貯蓄銀行も同時に閉鎖し、破綻した(Wikipedia日本語版より)。広志の異母兄である遠野ケンゴ率いるあずみ証券や金上鋭率いるオラシオンフィナンシャルグループは厳しい内部査察を毎週行っている為、市場からの信頼は極めて高かった。  「そんな調子では、リブゲートは乗っ取られますね…」  ウラキオラがつぶやく。彼の言葉は正しかったことが後に証明されるのだが、その事は誰もまだ予想しなかった…。  その晩の町田駅前…。  「ヒロ、ここで待てばいいの?」  「ああ…、もうそろそろ来るはずだよ」  広志は美紅に笑うとそこにショートヘアの女性が現れる。広志は会釈をすると車のドアを開ける。  「ヒロ君、久しぶりね」  「相変わらずです、海清さん」  「美紅ちゃんとスコットランドで婚約したってことじゃない」  「そうですね、挙式及び入籍については未定ですけどね。誕生プレゼントは車のトランクに入れています」  広志は半袖で運転をしている。  「輝から話は聞いたけど、CP9で色々と調べているみたいね。輝から事情も聞いたみたいで綾乃さんも忙しかったみたいね」  「詳細は明かせません、すみません」  「いいのよ。むしろ気に掛かるのはあの『ゴードム』という薬よ」  「確か、強烈に効くことは効きますが副作用が凄まじいシロモノですね」  「そう、それでこの前一人診療所に運ばれてきた患者さんがいたのよ」  「どういうことなんですか。今の話をもう一度詳しくお願いできますか」  運転をしながら広志はICレコーダーの電源を入れる。  「冒険家の明石虹一さんってご存知かしら」  「ええ、確か薬草発見でも有名な人で、つばさ製薬工業やライザー・ワグナーグループの支援を受けて探検をしておられる人ですね」  「その人が肺炎にかかってしまって、山の診療所でゴードムを原液のまま投与された結果病状が悪化したのよ。それで息子さんの暁くんに抱えられて下山して私の診療所に連れてきたの。龍奉先生がその時いなかったら大変だったわ」  「まさか、そんな…」  「明石親子も『ガジャ博士が開発した新薬がこんなひどいものだなんて信じられない』と話していたの。そこへあの記事を知って二人共憤っていたわ。ガジャ博士は二人の話によると完全な新薬を開発することにこだわっていて、命に関わる副作用をそのままにするわけがないって言って…。今研修を受けている梅ちゃんも絶句していたわ」  「当然でしょう、私もあれには唖然としました。二人はよくガジャ博士の薬草探しに協力していて、ガジャ博士の『薬とは草冠に楽と書いてすなわち人々を楽にするものなのだ』という信念を承知じゃないでしょうか」  美紅が答える。因みに梅ちゃんというのは下村梅子のことである。北見柊一によってその才能を見出され、海清のもとに送り出されて厳しく鍛えられていた。  「そうよ、私もこの前嵐くんを通じてガジャ博士と会ったけど驚いてショックを受けていたわ。あの人は薬害の被害にあった人たちの自宅を訪れて謝罪しているのよ」  「そこまで責任感を感じているのですか…。それでこの前ガジャ博士が入院したというのも…」  「謝罪行脚と研究開発、後進の指導で忙しかったのね…」  「利益優先が今の時代の常なのでしょうね。しかし、それでは悪夢は止められませんよ」  「ヒロ君、この傷跡…」  「これですか?綾乃さんが産気づいた際私の腕を掴んで輝広君や広乃ちゃんを産み落としたんですよ。その時の傷ですよ」  「あの時色々大変な上にこんな傷じゃ痛かったでしょ」  「いえ、この傷を私は誇りに思いますよ。箕輪夫妻に蓮先生夫妻、沖さんたちと再会できるとはね…」  「みんな楽しみにしていたわよ」  ちなみに海清は光介との間に輝、翔子と二人の子供がいる。翔子については仕事が忙しいため海清の実家である神矢家に預けられていた。そして翔子は外科医になり、今はヴァルハラ東京総合病院の外科部長を務めている沖登志也の妻になっている。  「蓮先生からメールが来たわよ、『早く来い』ですって」  「おいおい、俺がスピード違反したら洒落にならんよ」  「相変わらずね、蓮君も」  「そうですね、我々が帰国した際に真っ先に迎えに来てくれたのは輝先生と蓮さんですよ」  そうして車は一軒家近くの駐車場につく。その時だ。  「やあ、久しぶりだね」  「ギエン!」  「僕もドルネロも招かれているんだ。君の手伝いに来たんだよ。竜也兄さんも待っていたんだ」  ギエンはあの戦いの後で遊里の妹のメイと結婚している。それで竜也を兄と慕っているのである。  「ギエンも相変わらずだな、こんなサングラスじゃ」  「これは僕のマストアイテムだからね。シャボン玉は食事の最中だから流石にできないけどね」  「その通りだ、ヒロ」  「タック!」  ウィンクしたタックは海清に挨拶する。  「相変わらず元気で何よりです」  「相変わらず小生意気だけど、楽しい相手ね」  「ギエン、外からもどんちゃん騒ぎだって分かるな。輝先生の声が聞こえるよ」  「そりゃそうだよ、ドルネロが新しいお酒を持ってきてくれて試飲会も兼ねているんだから。最近では韓国のライズ社を買収してビール事業を強化したんだから」  「いかにもドルネロらしい。経費を節約して、試飲会で意見を聞いていい商品をつくろうと言うんだから」  「おい、待っていたぜ」  車から降りた広志にドルネロが声をかける。  「今度スコットランドのバーボンのメーカーまで買収したでしょう。ひょっとしてその試飲会もあるんですか。俺はNGですよ」  「大丈夫だぜ、運転代行サービスを手配しておいたんだ」  「アヤセさんですか」  「図星だぜ。まぁ、帰るときになったら一声かけてくれや」  広志はトランクルームを開けると百科事典を取り出した。輝から「最近では輝広や広乃から質問だらけにされてこまる」という話だったので選んだわけである。  「朱鷺子さんと同じ背中にやけどを負って大変だったでしょう」  「あのやけどはいいんです。それよりも、アジア戦争で癒されない傷を背負った人はたくさんいる。彼らが癒されることを今は望んでいます」  海清に言うと広志は目を閉じた。これからが本当の戦いになるという予感を広志は覚えていた…。   作者 あとがき  今回は我が盟友の作品の後に出すことにしました。  連携する形で話のあとに取り込むことで話の展開を広げる意味があるのです。過去編を考えだしたきっかけは「仮面ライダーキバ」の話の展開からです。また、新生活日記時代の小説についても取り込みながら今回の話を完成させました。次回の話は舞台が移ります。 取り込んだ話 Break the Wall(32話 迷走する壬生国 小野哲) テーマ:コメディ派遣国会議員 2007-11-17 21:41:31 break the wall(33話 揺れ動く世界 小野哲) テーマ:コメディ派遣国会議員 2007-11-18 20:36:42 著作権元 明示 「この恋は実らない」 (C)武富智・集英社 2007 『ミラクル☆ガールズ』 (C)秋元奈美 1991-1994 『ゴッドハンド輝』 (C)山本航暉・天碕莞爾(構成、監修) 2001-2012 『魔境のシャナナ』 (C)山本弘・玉越博幸・コアミックス 2009- [シバトラ] (C)安童夕馬・朝基まさし 2007-2009 「ふたりはプリキュア」 (C)東映・東映アニメーション 2004-2005 ゴルゴ13 (C)さいとうたかを・リイド社 1968- Samurai Deeper KYO (C)上条明峰 1999-2006 ブリーチ (C)久保帯人・集英社 2001- 美味しんぼ (C)原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ  1983- 機動戦士ガンダム (C)サンライズ 1979-1980 『すばらしい新世界』 (C)オルダス・ハクスリー 1932 『スーパー戦隊シリーズ』 (C)東映・東映エージェンシー 1999 『パスポートブルー』 (C)石渡治・小学館  1999-2001 『宇宙の騎士テッカマンブレード』 (C)タツノコプロ・創通 1992-1993 『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』:(C)北芝健・渡辺保裕 2003 『ウルトラマンティガ』 (C)円谷プロダクション 1996-1997 『機動戦士ガンダムSEED Destiny』 (C)サンライズ 2004-2005 『琥珀の雫』 (C)亜樹直・関口太郎 2010-2011 『鬼神童子ZENKI』 (C)谷菊秀・黒岩よしひろ 1992-1996 『ノノノノ』 (C)岡本倫・集英社 2007-2010 『Wild Half』 (C)浅美裕子・集英社 1996-1998 『F-ZERO』 (C)任天堂 1990 超機甲爆走ロボトライ (C)バースデイ 1989-1990 傷だらけの仁清 (C)猿渡哲也・集英社 2005-2011 キングダム (C)原泰久・集英社 2006- この彼女はフィクションです。 (C)渡辺静 2011 CHANGE (C)福田靖 2008 すんドめ (C)岡田和人・秋田書店 2006-2009 ドカベン (C)水島新司・秋田書店 1972- 梅ちゃん先生 (C)尾崎将也 2012 仮面ライダーブレイド (C)東映・ASATSU-DK 2004-2005 アキハバラ@DEEP (C)石田衣良 『天才柳沢教授の生活』 (C)山下和美 1988  なお、今回からテレビ朝日グループ及び講談社、TBS、フジテレビ、NHK、共同通信社、時事通信社、新潮社、文藝春秋社、テレビ東京、産経新聞社、日刊スポーツ新聞社、読売新聞社及び関連グループ、日本テレビ、朝日新聞社に関して新たに著作権者明示から全面的に排除することにしました。  理由は少年法違反を行ったことに対して全く反省していない事です。犯罪行為には厳しい姿勢を示し、更生させねばなりません。これからも違法行為を犯したメディアに対しては法令遵守に基づき厳格な姿勢を示し、存在そのものを無視する事で根本的から改善するよう厳しく迫っていきます。あの井上静氏ですらも「更生不可能につき死刑にすべき存在」と言い放ったほどです。そんな連中に著作権の尊重を求められる筋合いはないと私は断言します。  作品の人格権を私は尊重するため、作者及び脚本家に関しては記述するよう我が盟友に要請しています。しかし、権利ばかり主張する筋合いはないのです。権利の保護ばかりを主張しても、相手の権利を保証しない限りそれは意味が無いのです。