Break The Wall 第8集 メビウスの暗躍(小野哲)  今回、69話から73.5話までを再編・加筆します。  2009年に完成させてから、いろいろ考えるともう少し面白くなりそうな要素があります。なお、今回から話を公表した日を明示します。 初公開日 69話 サウザーの影 前編(小野哲) 2009-04-11 23:22:38 70話 サウザーの影 後編(小野哲) 2009-04-16 19:30:26 71話 蠢くメビウス 前編(小野哲) 2009-04-19 16:12:54 72話 蠢くメビウス 後編(小野哲) 2009-04-22 17:06:48 73話 黒き手(小野哲) 2009-05-21 00:27:14 第73.5話  疑惑の誘い(小野哲・Neutralizer合作) 2009-07-13 21:30:02 1  「うーむ…」  厳しい表情で顔をしかめる広志の姿がカフェ『パンジー』にあった。  やや太った初老の男が広志に紅茶を出しながら話す。広志は資料を眺めながら紅茶を飲む。  「ヒロちゃん、ということなんだ。力を貸してくれないか」  「殺人ショー『ストロベリーナイト』で9人殺されたというわけですか…。きわめて物騒ですね…」  「俺も困っている事件で、レスター博士に相談を持ちかけたわけだ。そうしたら、「犯罪心理分析チームを立ち上げてくれたら協力する」と言うわけなんだ」  「その彼が私を暗に指名したわけで…。分かりましたよ…、詳細を伺いましょう」  「犯人の手がかりが全くないわけだからな。分かっているのは殺された人間の中にあの疑惑で重大な手がかりを持った人物がいたという事なんだ…。俺たちも何とか調べるけど、ライバルのヒロちゃんに頼まなくちゃ奴らをだませないんだよ」  「その依頼話、引き受けましょう。GINに頼むのもよほど苦戦しているわけですね」  広志は言う、初老の男はゴリラ2の亀田呑警視で、ゴリラとGINは相互査察関係にある一方、事件の解決でも協力する関係にある。非常に複雑な関係にあったのだ。  「ちなみにレスター博士がスタッフを集めてくれたそうだ。頼むよ」  「分かりました、引き受けましょう」  その2日後…。  東京の警視庁から離れたとある空ビルでは…。  「というわけで僕らをここに誘ったわけか…」  初老の男に苦笑する中年男性。  「グレアム君なら、私の意図が分かると思ってね」  「しかし、こんなタッチパネルのパソコンをよくこの場に用意しましたね」  広志が感心した表情でテーブルのようなパソコンを操作する。ハンニバル・レスター博士は当然といわんばかりの表情で話す。  「亀田君がここまで準備し、君に頭を下げたのだ。私もそれぐらいは当然だろう」  「GINからは直接的な協力はできませんが、チームGANTZの桜井弘斗を出向させています。彼は情報分析の名手ですから確実に今回の事件の解決に貢献するでしょう」  「事件を見てみましょうか、高野CEO」  「あなたは?」  きびきびした口調で話す女性。  「私はクラリス・スターリングです。FBIで研修を受け、グレアム先輩と一緒に日本に移民で来ました」  「僕はウィル・グレアム。君の評判はアメリカでも聞いていた、君と一瞬ではあるが一緒に仕事ができるのはうれしい」  「彼は妻子がいるが、相当わくわくしていたようだ。この事件、ひどいと思って俺も捜査に加わりたいと懇願したんだ」  「フランシス・ダラハイト。妻がいるが、彼女は視力が弱いんだ。だから点字にも強い」  「いいチームになれそうじゃないですか、レスター博士」  「褒めてもらって光栄だ、高野君」  「事件の内容を分析しましょう。今回の犯罪、ストロベリーナイトというサイトで殺人ショーが行われていたわけですね。そこで何人かが殺された。その殺された被害者の一人にサウザー議員の私設秘書・錦織卓也。がいたわけです。リブゲートとサザンクロス病院の連絡や調整を一手に担い、ジャコウ理事長からの信頼も高かったそうじゃないですか」  「亀田君が事情聴取をしていたがぬらりくらりとかわすから頭を抱える有様だった。あの杉下君も『何かいい手がひらめけばいいのですが』とつぶやく有様だった」  「ひどすぎだな…」  フランシスには別名『レッド・ドラゴン』というあだ名がある。犯罪者を検挙する際に背中に彫られた赤い龍の刺青を見せる故だ。ウィルの相棒であり、ウィルの指示で裏づけを取る行動力を持っていて、あの杉下右京も高い評価を与えている人物だった。  「この事件は相当深刻なものですね…」  「同感だ…」  ハンニバルは折鶴を見せる。この折鶴は彼の特技で、彼は携帯電話のストラップに使うほど気に入っている。65歳だが美食家ゆえににおいにも敏感であり、現場分析にも長けている。  「CEO、ここにいましたか」  「何か分かったのか、桜井」  「はい、新たに殺されたガイシャの身柄が分かりました、尻屋潔です。町田リカを襲撃した実行犯の一人で指名手配されていました」  「行方不明になっていたと言うことは、闇社会がかばっていた可能性が濃厚だな」  桜井弘斗は厳しい表情でうなづく。  「それと、アブレラ周辺の護衛はどうだ」  「アブレラにはイワンさんをつけています」  「彼ならいい。だが、アブレラを取り込むには家族を人質にすれば足りると言うものだ。まずいな…」  アブレラは事件予告に立ち会った時に宣戦布告に応じると明言した。そこで報復を恐れた広志はイワン・ウイスキーをアブレラの護衛につけた。彼は警察軍大学付属中学校2年生であるのだが、頭の回転は大学生レベルである。そのため広志は通信制の中学課程に彼を転校させて任務についてもらっていた。  その頃、ゴリラ川崎署では…。  「黒崎、ビックニュースだぜ!」  嬉しそうな表情で入ってくるのは藤見智。ゴリラに加入した元ストリートギャングだった。彼を諭した警察官はちなみにあの瀬戸奈津子の亡き夫健三郎だった。藤見はこの事がキッカケで警察官になり、少年課で活躍してゴリラの一員に選抜されたのだった。東西銀行の口座通帳を携帯電話で見ていた黒崎はすぐに電話の電源を切る。  「藤見、こっちはあの御木本を追跡しているんだぜ」  「その御木本をさっき俺と神志名さんで捕まえたんだ」  「何!?」  その瞬間、びっくりした黒崎は藤見の目の前で頭を下げる。  「そんな事するなよ。俺の親友の敵は俺の敵でもあるから、当たり前だろうに」  「奴の取り調べは誰がしている?」  「是枝さん。あの人なら大丈夫さ」  「何たってあの安西晋三GIN顧問の秘書を勤めた人だからな」  「御木本、お前が様々な場所で悪質な詐欺行為をしている事はこちらの資料で全て把握済みだ。黙秘権を駆使してもお前は逃げられないぞ」  金縁のめがねにむさくるしい外見にぶっきらぼうな口調で迫る中年の男。御木本は顔色をわずかに変える。それを見逃さないのは吉川氷柱。  「是枝さんの指摘が図星と顔にでているわよ。諦めなさい」  「これだけ膨大な捏造された証拠、何一つ成立しませんな」  「無駄な足掻きだ。こちらにはお前が部下に詐欺を命じた会話テープもある。聞いてみるか?」  ぐうの音も出ない御木本に畳み掛ける是枝圭祐。氷柱が眼に涙を浮かべて迫る。  「いい加減に諦めたらどう!あなたの為にどれだけの人たちが破滅したの!?」  「黙秘ばかりでなかなか落ちないようだな」  「ごめんね、タカ…。私でも落とせない…」  「気にするな。まず銚子鉄道の事件では奴は完全に終わっている。その他に連鎖して被害者達が次々と告訴している。もう奴は破滅だ」  「そういう意味では『毎度ありぃ』って奴だな、クロさん」  神志名将が黒崎に舌を出す。そう、ここは川崎飛鳥亭の一室だった。黒崎の敵を取った事を祝う焼き肉パーティーである。飛鳥亭は経営再建を果たしたあと、川崎や東京に支店を立ち上げていたが、いずれも地元のレストランを3店買収して経営統合する手法をとっていた。だから、競争は少ないしレベルも高い。  「今回はシバトラの手柄だったな」  「そんな、それは当たらないよ。僕よりもチーム全体の手柄だよ」  甘え盛りの長女の五月にジンギスカンを食べさせるシバトラ。妻の美月が頬をつねる。  「素直に認めるべきだぜ。まあ、シバトラのサポートチームのおかげでもあるんだ」  「しかし、奴はしぶとすぎる。あれじゃエルモを相手にしていたほうがましだ」  「オスカーも困り顔か」  是枝の娘エルモは無邪気で好奇心旺盛な幼稚園児で、いつも是枝は百科事典を持ち歩かなければならないのだ。ぶっきらぼうだが面倒見がいいオスカーから是枝はそう呼ばれて慕われていた。川崎飛鳥亭の料理長である張伊健が笑顔を浮かべて入ってくる。  「ジンギスカンの中華風料理、いかがかな」  「さすがジョーさんの紹介しただけあっておいしかったぜ」  「財前捜査官によろしく伝えておきましょう。ですが…」  「事態は油断を許さない…」  一同は厳しい表情に戻った。日本籍の中華人の張はかつてゴリラに務めていたのだが定年退職した今は腕利きの料理人になった。国籍をとった時に協力したのがあの財前丈太郎である。  「何?御木本が逮捕されただと」  闇のヤイバは思わずにやりとした。バズレイ・ステビンスがすり寄る。  「後のクラヤミクラブの残党連中は僕ちゃんたちに当然取り込みましょう。それとエージェントXことエミリー・ドーンと再び接触しましょう」  「当然だ。お前らのバックスポンサーの広東人民共和国の名前を出せばベネットに追い込まれた奴らはすぐに飛びついてくる筈だ。すでにアメリカに舎弟企業があるからな。広東航空のチャーター便を用意せよ」  「それと、こちらからマボロシクラブにアシストしましょうか」  「それはいいアイデアだな。では、マボロシクラブのもう一人の用心棒にこの男を殺させよう。しくじったらこちらからマボロシクラブを乗っ取ってしまえばいい。金は2000万円ちょうど、件の警備会社の名目で振り込め!」  「上手くいけば美味しいとこだけ持って行けばいいでしょう」  「ザヅにおわれでいやがるやづらはたずがるわげでずがら」  闇のヤイバが取り出した写真には中田魁の姿があった。  そして小田原近郊にあるアブレラの家では…。  「ここまでよくやってくれるとは助かった」  「ジョーさんに頼まれて俺、ここに来ています」  ジーンズ姿の青年は堀内章太郎、現役大学院生にしてGINに所属している。普段は丈太郎の秘書官を勤めているが、小学生時代から外交官だった父親の都合で海外で生活しており英語も中国語もこなせる。特に少林寺拳法をマスターしたことが決め手になってGINに所属することになった。  「堀内さん、このモノレールのデッサンはどう?」  「上手いね、君の絵は。それとまさかテンマ君が少林寺拳法を教えてくれといってきたのには驚いたよ」  「強くなりたくてね。アーロンやサーシャを守れないなんて親父に笑われるじゃないか」  テンマ達三人はギド・アブレラおよびパンドラ・アブレラ夫妻の養子である。ちなみにアーロンとサーシャが実の兄妹であるがアーロンとテンマが同い年のためギドが養子に迎え入れたのだ。  「パパ、お茶が入りました」  「分かった、堀内君も休憩を入れてくれないか」  「ええ、アーロン君のデッサンに見とれているわけには行きませんしね」  「それと、君に見てもらいたいものがある」  ギドは険しい表情でテーブルに向かう。  「この声紋…!!」  「この前のエージェントXとエミリー・ドーンの声を比較した結果、ほぼ同一人物だと判明した。命を玩具の様に扱うなんて…!!」  パンドラたち四人も憤慨の表情を浮かべる。ギドがGINと共闘していることを知っているからだ。  「ギドさん、武器商人の仕事を縮小しようとしているなんて珍しいじゃないですか」  「俺は人の命を奪う仕事が我慢ならない。あいつの苦しみを間近で見てきたからだ」  アブレラの率いる日本セキュリティアンドライフサポートは確かに武器も扱っているのだが今のメインは警備会社であり、最近では新交通システムの経営権も引き受けている。アブレラは自らの取り扱う武器で命が奪われる事を嫌っており、警察官に販売する際にも必ず面接を行うように指示しているのだ。それで、武器の取り扱いは全体の10%を切っているほどだ。  だが、エミリーの率いるドーン・エンタプライスは利益の為ならマフィアにも販売する事も辞さない。そこでアブレラとは考えが違うのだった。アブレラは自身の売る武器で一つでも命が救われるならという願いだが、エミリーは利益だけしか考えない。それ故に衝突しあうのだった。    「ロン社長、始末完了です」  「分かりました。さすがにあなた方です」  ここはマードック本社に程近い事務所。この場所にいたのはロン、サウザーを取り囲んだ男達だった。ハルヒは肩身が狭い思いをしながらにやりと笑う。  「ハーツ、北見をあすこまで煽ったな」  「あの馬鹿は親父の掌に踊らされている故にストレスにおぼれやすい。故に洗脳しやすかったですよ。後は黄色い馬中毒の武良にやらせてしまうだけ。楽勝でしたよ」  「では、これで私は問題なく次期日本連合共和国大統領選挙に立候補できますな。城源寺恵三の後釜を狙えば安心でしょう」  「その通りですよ、ラドリッチ先生。連合共和国を抑えてしまえば公権力乱用査察監視機構はもちろん、ゴリラですらもお手上げです」  「後は俺が盗撮して恐喝する」  パパラッチのジャック・スミスがリーダー補佐のアール・ブルックスににやりと笑う。彼らはカート・ラドリッチ下院議員の手下なのだ。  「ミークス・ジャッカル、次の完全殺人のカルテは追って授ける。それまではハマーソン社長の元で用心棒として働け」  「かしこまりました」  大手拳銃製造会社社長のドニゼッチ・ハマーソンはエミリー・ドーンと繋がっているのは当然だが、この事をロン達は知らない。  「北見は所詮シャッポ。奴がしくじってもこちらには傭兵がまだいる」  「当然でしょう。こちらには切り札がまだある。ダビデブが壬生国奪還計画を進めている」  「しかし、君がこんないい腕利きを持っているとは思わなかった」  サウザーはにやりと笑う。涼宮ハルヒがロンの愛人である小田霧響子を通して闇社会に交渉して手にした殺人集団キラーネットワークス。  そもそもはあの裏金ファイルの発覚を恐れたフロスト兄弟が冥王せつなを殺そうと暗躍した事だ。サウザーも思わず焦った。何しろ、そのファイルを記録したUSBメモリーを運んだのが『週刊北斗』にインタビューを受けた野々宮ノノだったからだ。更に自身を追いかけている雑誌記者の霞拳志郎が高野広志と情報提供協定を交わし、GINに検察庁の久利生公平らを移籍させた為にサウザーは驚いた。そこで愛国心におぼれこんでいるハルヒを操ってマフィアに依頼させてノノの後始末を命令したのだった。  その彼女の後始末にジャギがしくじった揚げ句にいつの間にか行方不明になっているのは不安だ。  「東西興洋フィナンシャルグループが誕生するのを妨害しなければならないので焦っているのがいるな」  「こちらからロン社長と一緒に奴らに貸しでも作りましょうか?」  ハルヒがにやりと笑う。  「それはいい。売国奴どもに恥でもかかせてやれ。マクラーレン副大統領閣下がいよいよメビウスを動かし始めた。まさか、ビックバン作戦が動き出そうとは思いもしない。クーックック!」  「そうそう、あの男をドーンがゴモランジェロを通じてクロック・キングチームに狙撃させるようにしたようですね。あの恥知らずがキラ・ヤマト夫妻を殺すというので劇薬を渡したわけです」  「エミリー・ドーンね」  「そういうことです」  ロンも不敵に笑った。  2  「中田先生が今回、ストロベリーショー事件の捜査班に加わってくれた。失敗は許されないぞ!」  部下の下柳にどやす仁清。  「そこまで言うな、永井さん」  「こういう時ほど、油断しやすいんだ。中田先生、気をつけてくださいよ」  「ああ。まだ死ぬのには早すぎるからな」  英語で書かれた研究論文を読みながら中田魁は厳しい表情だ。ここは横浜・山下公園の中。下柳刑事を伴い仁清は捜査に入っていた。  「中田先生の目から見て、今回の事件はどう見る?」  「俺よりも永井さんの方がよく分析できているよ。一見シリアルキラーを装っているが、警察内に犯人がいるのは確実だ…。後はマボロシクラブやサウザーとの関係だろうな」  「ああ。それとトカゲって殺し屋…。あいつがマボロシクラブにいるというのも問題だ…」  「あの「黄色い馬」の販売元か」  「物騒な事ばかりしやがって…。俺らは胃薬がいくらあっても足りないぐらいだ。竹内を確保しても奴の残したルートが分かりにくい…」  「確かに…」  「ボス!」  男が声をかける。仁清の前方から初老の男が3人に近づいてくる。  「この前の殺し屋です。あいつを抑えればマボロシクラブはもう終わりです。署長に連絡しましょう」  「トカゲか…。よし、このチャンスに捕まえてやる!」  「無理をするな!」  「中田先生、俺はステゴロだぜ」  二人をかばいながらコートを右手に丸めると男を睨みつける。  「永井仁清…。お前に怨みはないが、死んでもらうぞ!」  「手前の目的が中田先生である事は知っている。ど外道め、俺を倒してからにするんだな!」  仁清がそういうなりトカゲは刀を抜いて切りかかる。だが、仁清は動じない。左肩に刀を突き刺すと右手でトカゲにカウンターパンチをかます。だが、しぶとく食らいつくトカゲ。仁清の鉄拳がまたしても唸る。そこにパトカーで駆けつける円城寺。  「仁さん!」  「旦那!早くトカゲを!!」  「下柳、救急車を呼べ!」  若い刑事に指示を出すとトカゲを取り押さえる円城寺。    「仁清さん、大丈夫か!?」  「なあに、ちっとも」  苦笑いする仁清。広志は仁清の怪我を知って驚き即座に病院に向かった。  ちなみにその病院、かつては診療崩壊がひどかった横浜商工会病院、今はヴァルハラ系列のヴァルハラ横浜病院になっている。この病院を再建したのは他ならぬ魁だったのである。  「中田さん、永井さんの容態はどうですか」  「タフだね。俺も見習いたいほどだ」  「子供達に話したら「早く元気になって戻ってきて欲しい」って話していたがね」  「円城寺署長、トカゲはどうですか」  「奴は歯を折られている以外は無事だね。後は奴のバック、ホストクラブのマボロシクラブの実態を暴くかだね」  「そうでしょう。それが中田先生の奥さんやご令嗣にも安心できる方法でしょう」  「善も早く回復して遊んでもらいたがっているからな」  「お父さん、ずいぶん楽しそうね」  夕菜(仁清の愛娘)が笑顔で入ってくる。  「ああ。みなさんに缶コーヒーだけど、買ってきたので…」  「すまない。そこまでしなくてもいいのに」  「気にするなって。ここでも仕事させてもらってるんだ」  「仁さんは仕事が好きなんだねぇ」  苦笑いする円城寺。夕菜を通じて病院に仕事を持っていき、仁清はそれをこなす事でリハビリ代わりにしていた。病室のベッドには今は亡き愛妻レオナの遺影があった。そこへ駆けつける女性。彼女の名前は姫川玲子。ゴリラ東京中央署主任・警部補である。さらには初老の男も入ってくる。  「何か分かったのかね、姫川君」  「やはり、トカゲの背後にマボロシクラブの一之瀬優がいました」  「やはりですか。という事は、間違いなく奴のスポンサーである中王新重会の中城剛毅が潜んでいる。久世留美子リブゲート元副社長がやはり関係しているな」  「ストロベリーナイトの手がかりで決定的な情報を手にしたようで」  「まだ断言段階とはいえませんが…」  「分かりました。別室で話しましょう」  姫川についてきた初老の男がタバコを吸おうとして禁煙に気がついてタバコをしまう。警視庁亀有中央署署長を務める勝俣健作である。  「しかし、あんたらよく話できるもんだな」  「逆に言えば、深刻な相手なんです。勝俣さん、あなたは決定的に等しい情報を持ってきたのでしょう」  「私の部下の話でね。実は最近勤務姿勢がおかしいんだ…。感情が安定しないのでね」  「単にストレスという事では片付けられないんでしょうね」  「そうだ。最近の教師もストレスで人間崩壊しているケースが多いからな。その男、北見というのだが、父親が警視庁のエリートでね…」  「……」  ハンニバルが険しい表情で目を閉じる。  「奴の周辺を洗うよう、フランシスに連絡してくれ。ゴリラにも伝えるように」  「了解です!」  「それと、正式に共闘することになりましたな」  「ええ、よろしくお願いします」  「そうですか。正式に支援要請に入りましたか」  二日前の東京…。  広志は厳しい表情で警視庁総監の大石隼斗と話す。  「我々だけの問題では片付けられない。君の担当部署にも関わってきている以上、私もGINに支援を要請せざるを得ない」  「お受けしましょう。私も今回の犯罪はどうも国家的な陰謀になりつつあるのは間違いないと見ています」  「そうでしょう。高野CEO、情報交換担当者として現場サイドで何人か決めておきましょう」  「ええ。自然にそうなっていくでしょう」  「ストロベリーナイト事件、どうやら警視庁のこの男が主宰者の可能性が高いようです」  広志はその人物の載った資料を見る。  「さすがにハンニバル博士だ。ここまで精神鑑定したら奴もお終いだ」  「何!?GINが嗅ぎつけ出しているだと!?」  めがねをつけたやくざ風の男が情報を聞いて驚いている。近くには喪黒福次郎がいる。  「これはいかん。国崎先生に連絡して情報を隠蔽しよう」  「資金はいつでも準備しています。わが兄福造の無念を晴らす計画の一部で動きましょう。皆様が再び壬生国を支配できるようにしなければなりませんね」  「うるさいGINどもめ!」  御堂まどかが苦々しい表情だ。  「落ち着け、ダビデブ!今はGINの動きをけん制するだけだ!」  「和井呂先生、今捕まってしまうとあのビッグバン計画がオジャンになってしまうわよ」  「そうなると困ってしまうじゃないか!」  「猫本先生、そこは私に任せなさい」  初老の男がにやりと笑う。だが、そうはいかなかった…。  3  安西が険しい表情の初老の男と向き合う。  「安西先生が、ここまでこられると…」  「あなたの気持ちは分かります。確かにあなたも壬生国を愛しておらっしゃるのは私も承知です。しかし、力で改革してもすぐに揺り戻しが来ます。あなたが闇の世界の貯金箱として猫本完一らの使い走りになっているのは知っています」  「まさか捕まえるというのか?」  「いえ、逆ですよ。我々はあなたに証人になって欲しいのです。猫本らとその背後にあるリブゲート残党の動きをあなたが我々に話していただくだけで結構です。その分、我々はあなたを全力でお守りしましょう」  安西は必死に国崎を説得する。  「私の娘婿、三年前になくなりましてね…。私は彼の分だけ、一人でも多くの悲しい思いをする人を救いたいのですよ。あなたも私は救いたいのですよ」  「……」  「私はあなたがイエスと言うまで、ここにいますよ」  「あんた、粘り強いな…」  「それが捜査官なのですよ」  「ボス、奴が完落ちしました」  「そうか、やはり北見があのおぞましい殺人ショーの主催者か」  ストロベリーナイト主催は勝俣の指摘どおり、警視庁亀有中央署所属の北見昇警部補だった。  動機はハンニバルが分析した。父克好が第三方面本部長で警視鑑だったための七光りでやりたい放題だったが勝俣の叱咤で挫折し、それ以来彼はおかしくなり始めた。相当甘やかされていたのは明らかだった。広志は厳しい表情である。  「だが、一件落着とは思えない…」  「そうですよね。なぜ、あの快楽殺人事件でサウザー議員の秘書が殺される必要があったんでしょうか」  「他はほとんど一般人だ。しかも、共通点は何一つない…」  「ボス…」  イワンとの会話の途中に良太郎がメモを持って入ってくる。  「これは…。まずい、奴は消されたな!キンタロス、GINに指示を出し、サウザーに関係する全ての証人および被告人の警備を強化するように動け!サウザーめ、それにメビウスどもめ…!!」  「了解!動かせてもらいまっせ!」  北見はあの後、拘留先の拘置所でストリートギャングから暴行を受けて殺された。それが先ほど入ってきたのである。厳しい表情で天上を睨みつける広志。そこへ恐ろしい表情で入ってきたのはバエ(本名・的場英介)。  「何があった、バエ!?」  「あなたの知り合いと言う人たちが男二人を捕まえてあなたとの面会を求めています」  「誰なんだ?」  「永瀬公平って人ですよ」  「分かった、男二人は陣内に事情聴取を頼み、残りメンバーは私が行くまでは君が事情聴取をしてくれないか」  「分かりました。それと、あの『あけぼのの櫓』と暴力団、そしてテレビ占い師の小田霧響子の関係が読めてきました」  「分かった、それについてはレポートはあるのか」  「手元のSDメモリーカードにあります」  そういうとバエはメモリーカードを渡す。金髪の美女がバエに目配せする。彼女はバエの同級生にしてデンマーク出身のアン・ラウドルップである。彼女はバエと恋仲にある。  「陣内さんにあの二人は託しました、CEO」  「分かった、事後承認だな」  二人が部屋から去っていく。イワンはつぶやく。  「野戦病院に等しい状況ですね」  「ああ…。それと、島村君はどうなんだ」  「ジョーから昨日電話があったんです、実はあのビアス教授から手紙が来たそうです」  「彼にビアス教授から!?一体何が。それにどこからだ」  「イギリスからです。CEOは調べるつもりでしょうか」  「当然だが、内容は聞いたのか」  「どうやら、自分は不治の病に犯されていてもう先はそれほどない。今まで自分がCP9のスパンダムの暴走を止められなかったのは自分に甘さがあったからだ。罪をかみ締めてイギリスで生きていくという内容でした」  「まずいな…。ビアス教授の事情聴取も急がねばなるまい…」  「それと、まずい事がイギリスにあります。EU副議長のツバロフとフレア・イギリス首相が対立しているようです。ロンとの関係がツバロフにはあります」  「政治に介入することは我々はできない。あくまでも公権力の乱用を阻止するためにGINはあるのだ。苦々しい」  そういうと広志はパソコンを立ち上げる。  「君はこのレポートをどう見るべきか…」  「バエ先輩のレポートですか…、あの麻薬宗教ですよね」  「ああ…。小田霧響子はマーク・ロンと脱税資金を集めるために『あけぼのの櫓』を買収した。そこに、サウザーは目をつけて暴力団の資金源洗浄に活用すると引き換えに利益の1割をキックバックさせていた。この団体はアフガニスタンに進出しているが麻薬の製造拠点に使うためだったというなら、話は納得だ」  「しかも、宗教団体なら非課税ですからね」  「しかし、バエもいいスポンサーを持っている。ヤマトテレビ社長の牛込靖がデジタルキャピタルの中込威社長とバエのことを気に入っているそうだ。内定が出るのも無理はない」  「コネクションじゃないですよね」  「彼の場合は実力だ。後は日本に麻薬が入ってきた経路だが、君の考えを聞いてみたい」  「僕が奴らだったら、漁港を利用しますね」  「やはりな…。私と考えは一致した、日本国内に廃業していた漁業関係者から漁船を買い取って水揚げを装って密輸入し、町田リカを通じて闇社会で加工させ、日本に流通させていたと見ていいだろう」  「そうですね…」  「北見のことだが、ゴリラにも連絡を入れておいてくれ。そして関係者の自宅周辺を町内会による一声運動や警察官の巡回でチェックしておくよう頼んでくれ」  「分かりました、それとCEOは」  「決まっているさ、バエたちの話に立ち会う」  「野間渕たちがお前たちの追いかけている浅倉と会っていたんだ、で問い詰めたら浅倉が神無月に襲い掛かった」  「大丈夫だったんですか」  「俺がスタントマンの世界で世界一だって言うことを知らないのか」  無口で筋肉質の男がぼそりとつぶやく。神無月慎吾のとっさの行動と永瀬紋音の美紅への通報、偶然近くを歩いていた財前丈太郎と安西晋三が救助に入った結果、彼らは助かった上メビウス関係者の検挙につながった。  バエが質問し、答えをアンが書きとめる方法で事情聴取は進んでいる。そこへ音もなくそっと入ってきた広志。  「CEO!」  「驚くな、バエ。永瀬さん、お久しぶりです。10年前と変わっていませんね」  「お前…!!」  永瀬公平は戸惑いを隠せない。彼はスタジオ「ギミック」でSFXの仕事を請け負う特殊メイクアップアーティストである。妻の紋音(26歳、美紅の高校時代のクラスメイトで10年前、父の隆をテロリストによって殺され、首謀者を広志が倒した事もあって知り合いにある。なお、絵の技術に優れており、写真と見紛うほどの絵を描くことが出来る)、仕事上のパートナーである慎吾と共同生活をしている。  彼はSFXバカといわれている、それには理由があり、学生時代からSFXに掛ける情熱は並外れており、純粋に心からSFXを楽しむあまり仕事のみならず私生活でも(主にイタズラに)使用する程だ。それで広志も公平と一緒に紋音にまとわり着いていた痴漢を捕まえたことがある。  「相変わらずSFXバカかい、紋音さん」  「イヤね、ヒロ。相変わらずよ」  「公平、彼は!?」  「R・B、彼は高野広志っていうんだ。俺達はヒロって呼んでいる」  「相変わらず隙間がないな、ヒロ」  「ええ、神無月さんも相変わらずまじめですね。永瀬さんのいたずらを突っ込めるのはあなたぐらいでしょう。R・Bさん、はじめまして。話は永瀬さんから伺っています」  「あの戦いから10年か…。私の教え子がGINに加入したと聞いて驚いていたが、まさか君とかかわるとは思わなかった」  R・B(本名:リッキー・ベイカード)はコーヒーを飲みながら広志に話す。彼は公平のSFXの師匠であり、世界的に有名なSFXアーティストでもある。アジア戦争が終わった後、アイヌモシリ共和国の廃工場を買い取って映画スタジオを開設し、映画製作にかかわるようになった。ちなみに映画スタジオの名前は公平のハリウッド時代からの友人のダン(本名:ダニエル・グラスマン)からスタジオ・ダンと命名された。ダンはアイヌモシリ共和国に母や弟たちと移住し、そのまま国籍をとっている。  「で、事情聴取の内容は」  「これです」  「今頃あいつら忙しそうだな」  「加賀世さんや日吉さんたちのことですか」  「ああ…。まさか、加賀世が映画監督に抜擢されるとは思わなかった」  「彼は30年も映画に携わってきたベテランのSFXアーティストですよ。当然の腕前ですよ」  加賀世 康生(かがせ こうせい)とは公平の先輩であり、今は映画監督になっているが辣腕のSFXアーティストだった。「錆付いた腕」と謙虚しているが公平も一目置く。公平の後輩である日吉 若菜(ひよし わかな)と公私共にパートナーを組んでおり、映画に精通しているために「映画オタク」というあだ名を持っている。  そこへ陣内が入ってくる。  「CEO、とんでもない事が分かりました」  「どういうことだ」  「俺も驚きましたわ、あの野間渕ですが10年前に島倉隆氏が殺害された事件で共犯として指名手配されておったんですわ」  「えっ、父を殺した共犯者だったんですか!?」  「落ち着いて!陣内、話を続けてくれないか」  「今まで浅倉の協力を得て逃亡生活を送っておったらしいですわ、そこに永瀬はんが見つけはったから混乱になったんですわ」  「まだ他にも話はあるのだろう、別の部屋で話は聞こう、バエは永瀬さんたちの話を聞いておいてくれないか」  「了解です」    「で、野間渕一樹は浅倉と手を組んでいたわけか」  「そうです、間違いありません」  陣内の妻である美奈子がはっきり言い切る。陣内は野間渕たちの事情聴取に戻っている。そこで、書き取り役の美奈子が広志に報告していたのだ。  「奴から事情は聞いたのか」  「問い詰めた結果、浅倉たちダークギースがメビウスと手を組んでいることが明らかになったんです。しかも、オーブやGINを対象にしたテロを計画しています」  「覚悟はできていたが、許されない連中だ」  「伊藤 清史(いとうきよし)も野間渕と共犯です。奴は爆弾製造に長けています。どこでどう行動したのかを厳しく追及しました、そうしたら海上移動基地でバイクを改造していたというのです」  「何をどう改造したのか、分からないのか」  「なにやら、発火装置を取り付けたりしていたようです。そこに女と背の小さな男がいたそうです」  「その人物の似顔絵を作成し、直ちに突き止めるように。いいな」  「ハハッ!!」  そこへ陣内が入ってきた。  「CEO、大至急武器商人のドニゼッチの身柄確保をお願いできまへんか」  「何故必要なのか」  「奴がメビウスに関わっていると分かったんですわ、奴を確保し、メビウス関係者を一網打尽にしてしまいまひょ」  「分かった、私の責任で承認しよう」  その判断は正しかった。ドニゼッチは身柄を確保され、そこから壬生国のクーデター計画が明らかになっていくのである。  「さすがだな…、メアリージェーン…」  「ねぇパクストン、もっとすごいメンバーを雇わないかしら。核兵器を奪って一発ドカンというのはどうかしら」  「そりゃいいな…。こちらには人工衛星まで揃っているからな」  ここは広東人民共和国首都・香港にあるパワーズ家。  香港屈指の財閥であり、最近では日本へも傘下の上海証券を通じて進出を図ろうとしている。メアリージェーン・デルシャフトがなぜここにいるのか。そう、メアリージェーンは広東人民共和国国籍を取得し、外交官ビザで入国しているのだった。そして、ここはパワーズ家の中核企業・パワーズ・インダストリアル。リブゲートアメリカという名前で一時期リブゲートの系列に組み込まれていたが喪黒一族の混乱にまぎれて第三者資本割当などで独立し、広東に進出していた。  その社長のパクストンの嫁としてメアリージェーンは「嫁いだ」わけである。だが、これはあくまでも政策結婚。パクストンの狙いは中華連邦への進出であったのは言うまでもなかった。広東人民共和国に進出する事で資金繰りを確保したわけである。だが、その資金繰りが黄色い馬やシルキーキャンディなど違法薬物によって作られたものである事は言うまでもない。それを承知の上でデレクとパクストン親子は広東人民共和国と組んだのである。  「バミアのバリー、本当によく北見を始末したな」  「完落ちする性格と見ていたからストリートギャングに金を払って騒がせて拘置所に行かせてそこで北見と遭遇させてボコらせたわけよ。後は少年法で保護されているから問題はないわよ」  「さすがわれらがボスというわけだ」  金髪を後ろで束ねた男がにやりと笑う。  「ディーン、GINに気をつけろ!奴らが動いていやがる」  「承知の上だ。カルロス、あの裏切り者を早く始末してくれ。まさかあいつが裏切るとは思わなかった」  これまた金髪だが日系人の男がうなづく。彼の名前はカルロス佐藤。日系人のブラジリアンマフィアである。金のためなら何でもやる。  「ここまで公権力乱用査察監視機構が動くとは困った相手ね」  苦々しい表情で今帰仁チョコレートはぼやく。答えるのはパクストンだ。  「そもそも、相手が相手。あの高野広志相手じゃ勝てやしない。あの毒女は失敗できない」  「だから、キラ・ヤマトに絞ったわけよ。失敗は許されないわよ」  「毒女」パメラ・リリアン・アイズリーは環境保護に熱心すぎる故に凄まじいテロを容認し支持したために、務めていたアイアン・ユニバーサル・ウェルファーマ所属の研究所を解雇された。その前から知り合っていた浅倉に誘われてメビウスに高額のサラリーで加入した。  「キラ・ヤマトはお人よしだから引っかかりやすい。後は念押しにあの切り札で…」  「絶対成功しかないわよ。あの男はクロック・キングが引き受けることになったわよ」  「それと、とんでもないことになってしまった。野間渕、伊藤、ドニゼッチの身柄がGINに確保された。野間渕らはドジを踏みやがった。山本洋子の責任は重い。殺してしまおうか」  「それならパクストン様、一つ提案があります。彼女を僕ちゃんのメイドにしてもらえませんか」  バズレィ・ステビンズがニヤニヤと笑いながら言う。  「いいだろう、あの女はヘタレな策略しかしない。お前に任せる。闇のヤイバには私から提案しておこう」    4  「メビウスがここまで動くとは…」  ここはアメリカ・ニューヨーク…。  厳しい表情で男がレストランの裏地で話している。  「ローン、気をつけるんだ!リブゲート残党はどうやら日本国内から広東人民共和国に逃げ込んでそこから反撃するようだ」  「スミス、最悪のケースを想定したほうがよさそうだな」  にんじんをぼりぼりと食べるスミス・エマーソン。彼はCIA出身のGIN捜査官なのだ。ローンと言われた男はローン・マン。GIN捜査官になった元マフィアのスパイだった。  「そうだな、お前の言うとおりだ」  「オズワルドオーナー!」  ちょっと小さく太ったユーモア精神に溢れた紳士がうなづく。  「くれぐれも、あいつら3人を頼む。俺の情報網でもあると同時に、あいつらに何かあったら俺が不安だ」  「安心するんだ。それは偉大なるブルースに頼んであるさ」  「マックス、エミリーの情報はどうなっているんだ」  ピーター・パーカーが聞く。  マックスと言われた赤毛の少女は渋い表情である。彼女はマックス・ギブソンという。コンピューターに強く、自作パソコンも多い。最近ではUSGINの通信網まで構築したほどなのだ。  「ドーン・エンタプライズに広東人民共和国から大量発注が現地にあったみたいよ」  「困ったものだ。ここまで狡猾に動くのは参ったな。ブルースも困った表情になるね」  「そうよね。偉大なるヒロが厳しい表情になるのもむりはないわね」  テリー・マクギニスはブルースの秘書を務める。その彼女のディナ・タンはいわば補佐役なのだ。二人を推薦したのはピーターの学友でアメリカ重工大手のオズコープCEOのハリー・オズボーンだった。  童顔の残る青年が資料を見ている。彼の名前は江戸城本丸。米国に留学している中学生にして格闘家である。  「本丸、君はどう見るか」  「冗談だと思うけど、メビウスは大統領を射殺しかねない。ベネットはパンドラの箱をあけてしまったからね」  「シャレにならないな」  「近々、仲間が一人増えそうだよ」    髪の長い女性が車を運転している。助手席の男は険しい表情だ。  「泉、どうやらストロベリーナイト事件はサウザーが絡んでいるのは間違いないようだな」  「ええ。元ハニートラップの私にもわかります」  この車には防弾ガラスがはめ込まれている。あのデューク東郷が厳しくテストをして合格を出したほどなのだ。城福寺泉は大統領私邸から大統領府まで夫恵三を送り出す。  選挙の時には自ら演台に上り演説するなど戦う女性の顔をのぞかせる。中国から日本に国籍を変更したのも、夫恵三との愛があったからだ。政策立案にアドバイスするため影の大統領とあだ名されていた。  「佐田さん、気を付けて下さいね。ゴリラ埼玉署の署長の仕事は厳しいですから」  「本当に気配りばかりね、あなたって」  「そうか、丈太郎の情報なら確実だな」  翌日、広志は小樽にいた。行政事業の効率化とその課題を把握すべく地方視察を行っている朝倉啓太日本連合共和国首相の指名でSPを兼任することになった。財前丈太郎が札幌支部に移って調べていた結果を持ってきた。  「ジャギの証言通りでペテルブルグ日本信託銀行小樽支店に奴の個人資産管理会社名義で資金が管理されていたぜ」  「これではどうにもなるまい」  苦笑いする広志。浅倉守がGINの教官を務めているが忙しくて休みが取れないとクレームが入ったほどだ。GIN東京本部主任の岡村良行と伊達、陣内の恩師である鴨下光明を新たに加入させて教育体制の強化を進めていた。  「しかしあんたも庶民的だね。セレブの収入なのに無駄遣いを嫌うのはたいしたものじゃん」  「朝倉首相、私をなぜSPに加えたのでしょうか」  「決まってるさ。俺はあんたを政界に参画させたいんだ」  「そ、そんな人材ではありませんよ。何かの間違いでしょう」  「理知ある指導者で知られるスコットランド王国、ケルトデイン王系クリスティーナ6世から男爵の称号を受け、オーブのキラ・ヤマト国王殿下の盟友ならば誘わない動機はありませんよ」  女性が言う。  「クリスティーナ様とは偶然です。それに、キラは友人です。それだけで国を引っ張る人材に相応しいとは思いません」  「神林正一下院議長が後継者を探しておりまして、ぜひあなたを指名したいというのです」  韮沢勝利官房長官がいう。  「あの10年前は長野で大好きな天体観測と子供相手に熱中していたんだ。あんたにも力を貸して欲しい」  「サンマ尽くしの第一弾、参りますよ」  若い板前が彼らの前でサンマをさばく。銀座の老舗寿司屋・一柳の一族で小樽を中心に北海道で寿司屋を展開する司鮨の棟梁(社長)の米寿司である。  「困ったな、本郷」  「CEOにそんな話が行くのは自然でしょう」  「本郷さんの指摘通りですよ。高野CEOの能力はあのスコットランド王朝の財政再建でも発揮したじゃないですか」  翻訳担当の西谷龍彦が本郷由紀夫にうなづく。彼の愛妻で妊娠中の妻彩菜は実家が花屋なのでいつも広志の机には花が飾ってある。美紅がいう。  「ヒロ、この話を受けるべきよ。人の心にこそ、メスを入れ直すべきよ」  「政治家は厳しい仕事だ。発した言葉で運命を狂わせる。あの老獪なギルバート・デュランダルでも苦悩しているではないか。果たして俺には出来るのだろうか」  その時だ。突然窓ガラスが割れると同時に拳銃の音が響く。ロシア人の男二人がモデルガンを構えている。すぐに本郷と丈太郎が襲いかかる。本郷は薩摩忍者の流れを汲む示現流薩摩拳法、丈太郎は琉球手の達人なのだ。広志は周囲を警戒しながら朝倉達をかばう。  「CEO、確保しました」  「自殺防止措置をしてから身柄を札幌署に送れ」  その瞬間、近くに停めていた車が急に動き出した。  「あっ、待ちなさい!」  「カチーナ!」  ディアッカが驚いて愛妻の後を追う。  「何だと、由紀夫がメビウスと戦って傷を受けただと!」  驚くのは今津。本郷由紀夫とは実の親子なのだが、独立心が極めて強い性格のため、互いに一線を引いていた。由紀夫の愛妻である絵美が電話で話す。  「由紀夫さんがロシアンマフィアを取り押さえた際白兵戦で肩をナイフで切りつけられたそうです。軽傷でしたが、メビウスが絡んでいるのは必至です。財前さんは無事です」  「とにかく軽傷で安心した。絵美さん、由紀夫を頼む。メビウスはオーブにも報復のターゲットを定めておる。ワシはヒロのために何とか調べねばなるまい。真輝と博絵はどうなっておる」  「安心して由紀夫さんのそばで寝ています」  「そうか。頼むぞ。財前にはくれぐれも潤子さんを泣かせるなと叱っておいてくれ」  「お心遣い分かりました、お父様」  苦笑する義理の娘にほほえみながら電話を切る今津。腹がすこし膨らんだ妊婦がすまなさそうだ。彼女が西谷の妻である彩菜であった。丈太郎の進言で留守中は預かることにしたのだった。妊娠中に奇襲を食らったらたまったものではない。  「今津さん、すみません」  「たまにはこんな仕事も気分転換にはいい。ワシも勉強になる」  今津は生け花を彩菜から学んでいたのだった。彼女のストレス発散にはいいのではないかと見て動いたのだった。  「こいつがメビウスの一員か…」  肩にちょっと軽い切り傷を負った本郷が丈太郎と話す。男はゴリラ札幌署に連行され、厳しい取り調べを受けていた。  「しかし、あんたの奥さんはおっかない。潤子を泣かせるなとあんたの親父さんからメッセージを伝えてきたんだからな」  「私の暴走を止められるのは絵美だけだ。それだけは誇りに思うがね」  「保有していたパスポートは偽名がオースティン・ジョンソン、本名はジャック・スミス、相棒がアール・ブルックス。相棒は米国でシリアルキラーとして有名になったが逮捕されて何故か広東人民共和国に引き取られる事を条件に米国追放刑を受けている。どうなっている」  「メビウスの一部がロシアンマフィアを取り込んだんじゃないのか」  ディアッカ・エルスマンが困惑した表情で現れる。スミスを捕まえられたのはカチーナのとっさの判断が大きかった。車のタイヤをパンクさせて一人確保に成功したのだった。  だが、ブルックスは逃走中だ。ブルックスは広志の襲撃後に朝倉を射殺しようと企んでいた事もスミスの自供から明らかになった。彼らはだが知らなかった、これがメビウスの引き起こす大きなテロ事件の予兆になろうとは誰も予測しなかった…。  「というわけで尻尾を巻いて戻ってきたのか、この負け犬が」  闇のヤイバの冷たい声がブルックスに飛ぶ。ブルックスは命からがら逃げていたところを今帰仁チョコレートに回収されて高速トラックに「荷物」として載せられてそのまま米軍の秘密基地に連れられてきたのである。  「まさか奴が二人切れ者を用意しているとは思わなかった…」  「いいわけは俺にはいらない。リーベルト、この男を電気椅子に座らせろ」  「がじごまりまじだ、やいばざま」  そういうなりリーベルト・ドワイヤーはブルックスを引き上げ、そのままブルックスは電気椅子に押しつけられる。  そこに背の小さな男と金髪の女がブルックスの手足を拘束する。更にめがねを掛けた男が冷たい目で笑う。  「大丈夫、死んでも君の臓器はしっかり売却するよ。君は永遠に生き続けるわけだ…」  「うわ、ご、ご慈悲を、ヤイバ様、クロックキング様!」  「失敗者には情け無用だ。そうだろう、今帰仁」  「そうよ、私達メビウスには失敗の二文字はないの」  ショートヘアの女がニヤリとしながらブルックスに微笑む。すでに両手足を電気椅子に拘束され、ブルックスは震え上がる。小さな男が猿ぐつわをブルックスに無理矢理つける。  「こいつに猿ぐつわでもつけて悲鳴が聞こえないようにしましょう」  「そうね、悲鳴を上げたら商品価値がなくなるわね」  「ステビンズの処刑マシーンの栄えある第一号に選ばれたことを誇りにするがいい、やれ!」  ヤイバの冷たい一声にメアリージェーンが電気椅子のスイッチを押す。たちまち周囲に火花が散り始める。  ブルックスは目隠しされたまま、この世を去っていった…。  「新鮮な死体、まいどあり」  「ダークドクター、こいつから好きなだけ臓器をもらうがいい。どうせこいつの死体は葬式も上げる価値もないからな」  ヤイバは冷たい声で言い放つ。メアリージェーンは寒気を感じる。  「さすがに手際がいいわね、ヤイバ」  「前のシンセミアのボス達は役立たずだったという事だ」  「それにしても今帰仁様がまさかアメリカ空軍とつながっていたとは…」  「それぐらい当然よ、私はCIAですから。それに、マクラーレン副大統領が私達のスポンサーの一人よ」  「それに、今度はオーブだ。あの毒女、うまく潜り込んだようだな」  ヤイバのいう毒女とはパメラ・リリアン・アイズリーの事である。  「明日あの国王はやるわよ、もししくじってもその時は…」  「僕ちゃんの考えた『消しゴム』がしっかりこの世を驚かせますからねぇ」  ステビンズがにやにやとする。そう、彼らは万が一失敗しても『保険』を仕掛けていた。それがさらなる混乱を招くとはその際誰も気がつかなかった…。  「それとステビンズ、お前の提案は承認された。あの役立たずと夜を共にするなり、好き勝手にするがいい」  「ありがとうございます。さすがにヤイバ様だけあります」  それから二、三日後…、光写真館で…  「士君、何ですか?この写真は」  光夏海は写真館に居候している青年、門矢士が撮った写真を見て尋ねていた。彼はジェス・リブル・松永みかげ・南玲奈と共にカメラマンチーム『ディケイド』を結成し、いろんな現場に現れてはカメラに収めていた。特に士とジェス、南は野次馬根性だけでなく一癖も二癖もある人物である。  「これか、ふと見かけたら面白そうなのに出くわしたんで撮ったがな、見ての通りボケている。どうも撮られたがってなかったな」  「ってただ失敗しただけでしょう」  「違うな、相手が撮られたがってなかっただけだ」  と士は言い張る。夏海が手に取っている写真にはピンボケした場面が写っていた、どうやら町の路地裏で二人の人物が何か話をしていた場面のようである。  「よく言うよ、でも一応顔だけはうまく移っているようだな」  と夏海の後ろからジェスが写真を覗き込んで言う。  「…あれ?この男の人、どこかで見たような…」  「おい、相手の女も分かるぞ。確か壬生国空軍の…思い出した!確か十年前のテロ戦争の時の…」  「え!?どうしてこの二人がここで会っているんでしょう?」  「知らんな、もしかして悪巧みへのお誘いか?まあ、この女にはとんでもない経歴があったしな」  「とりあえず新聞社に出すか?」  「ああ、もちろんだ。みかげに渡しておくか、あいつならこれに喜んで飛びつきそうだ」  「また悪い癖ですか、いい加減恨まれますよ」  「もう慣れっこだ、でなければこんな仕事はしていない」  「そんなものですかねぇ…」  だが士が撮ったこの一枚の写真が壬生国に一つの騒ぎと疑惑をもたらす事になろうとは『ディケイド』の面々は知る由もなかった。    翌日、浜松にある壬生国空軍基地…  「アルト先ぱーいっ!!大変でーす!!」  この基地に所属する隊員、ルカ・アンジェローニはトレーニングで基地の敷地内を走っている先輩格の隊員、早乙女アルトを追いかけていた。彼の手には一冊の週刊誌が握られていた。  「どうした?そんなに慌てて」  アルトは立ち止まってルカが追いつくのを待つ。  「はあ、はあ…せ、先輩、こ、これ…この…週刊誌に…とんでも…ない事が載って…いるんですよ…はあ、はあ…」  ルカは息切れしながら手にしていた週刊誌をアルトに渡す。  「これか、これに何が載ってるんだ?」  「そ、そこに折り曲げているページがあるんですよ、そこを開いてみて下さい」  アルトはルカが言ったページを捲る、すると  「!!おい、この写真の人物って!!」  「ええ、そうなんですよ、あの草薙少佐ですよ。それだけじゃないんです、もう一人の人物というのが」  とルカが写真を指差した先には  「こいつは!確かエズフィトで米軍を扇動して和解工作をぶち壊そうとした傭兵の一人じゃないか!」  「ええ、この記事によればこの男の名はドリスコルというんだそうです」  「そいつがどうして草薙少佐と…」  「分かりません、この記事でも何を話し合っていたのか不明だそうで…」  と二人が週刊誌を見ながら話しているところに  「おいアルト、トレーニングはもう終わりか」  と同僚のミハエル・ブランが走ってきた。  「おい、ミシェル!それどころじゃねえ!こいつを見ろ」  とアルトは週刊誌の記事を彼に見せるが  「ああ、俺も見たよ。クランがこれを持ってきて見せてくれたんだ。もう基地内で専らの噂だぜ、この男が少佐の過去の事を知って近づいてきたんじゃないかって」  「…マジかよ」  「お前も知ってるだろ、この基地にいる草薙少佐以下数名が元テロリストの部隊にいたって事を」  「…ああ、函南さんもその一人だったな」  アルト達が言った人物、草薙水素と函南優一は十年前、他の数名と共にテロリスト『シャドーアライアンス』の戦闘機部隊『キラーチルドレン』、通称『キルドレ』にいた。その時は遺伝子から加工されて生を受けた事もあって組織に洗脳され、正に殺戮マシーンと化していたが広志やオーブ軍によって部隊を壊滅させられ、二人や生き残った者達は洗脳を解かれ、然るべき刑罰を受けて各国の軍隊に編入させられた。だがその実力はホランド率いる戦闘機部隊と互角に渡り合えるほどだった。  「先輩…もしかして…少佐は…」  「馬鹿なことを言うな!少佐がアイツ等の話に乗るかよ」  「だがアルト、脅迫されてっていうパターンもあるぞ」  「そりゃそうだが…いずれにせよ上層部は黙っちゃいねえな」  「ああ、少佐達元『キルドレ』メンバーは召還されて尋問を受ける事だけは確かだな」  彼らが話し合っている時、二人を乗せた車が基地を出て行った事は後々知る事になる…。  同時刻、壬生国防衛省…  「……」  朽木白哉 もまたアルト達が騒いでいた週刊誌の一面を見ていた。そこへ  「兄様!」  と義妹のルキアとカイオウが入ってくる。  「…この一件か?」  と白哉 が週刊誌を見せると  「そ、そうだけど…もしこれが本当だとしたら軍部内で内輪もめが始まる事になる」  「それよりも問題なのは奴等がまた利用される事だ、あの『メビウス』とやらの組織によってな」  「軍部内の動揺を抑える為にも奴等を尋問するしかあるまい」  とカイオウが提案すると  「カイオウ、お前の事だ。もう既に呼び寄せてあるのではないか」  「ああ、事後承認してもらえるかな」  「いいだろう、こちらは内乱が終わってまだ間もない。それに我が国の中で旧喪黒派に奴等が接触しているらしいという情報も入ってきている」  「それにしてもまさか元『キルドレ』に目をつけるなんて…」  「奴等は戦闘において相当な実力を持っていると聞く。それに歩兵としてもかなり訓練されたそうだからな。恐らくその能力を狙ったのだろう」  「まずいな、拳志郎にもそれを伝えておこう。奴等にもこの尋問を取材させてもかまわぬか?」  「そうだな、立ち合わせろ。この尋問でのやり取りは大部分を公開させることにする」  翌日…  召還された元『キルドレ』メンバー、草薙水素と函南優一に対する尋問が防衛省内の会議室で行われる事となった。そこには拳志郎の他、広志、トレーズ、それに派遣国会議員、狂(本名:鬼山狂)の姿もあった。特に広志とトレーズは週刊誌の情報と白哉が元『キルドレ』に対する尋問を行う事を知るや参加を要請、白哉も許可したのだった。  「壬生国空軍少佐、草薙水素」  「はっ!」  白哉に呼ばれた水素は椅子から立ち上がり、会議室中央に向かう。彼女はそこから参加者の視線を一身に浴びる。  「昨日、さる週刊誌にお前が『メビウス』、いや『ダークギース』のメンバーと会っているという記事が載せられた事は知っているな」  「はっ、無論であります」  会議室内がどよめく。  「静粛に!草薙少佐、その時に何を話した」  「は、『近々、旧喪黒派による政権の奪回が行われる。お前達元『キルドレ』も参加し、しかるべき役職について面白おかしくやってみないか』と誘いを受けました。それから『例え、乗り気ではなくとも軍隊を牽制ぐらいはできる筈だ。もし、この事を公にするのならばお前達がクーデターを画策し、政権を乗っ取る計画をたてているというデマもしくは十年前にお前達が犯した虐殺の数々を流す』と脅してきました」  「で、少佐はどのように答えた?」  「は、『流したければ流すがいい、我々は当に罪人だ。どう非難されようが甘んじて受け入れる用意がある。それともテロリスト共がやったように我々を洗脳でもするか?』とはねつけました」  「そうか…」  と白哉が頷きながら言うと問題となった週刊誌を出して写真を見せながら  「これはお前がその時相手と話しているところをあるカメラマンが撮った写真だ。その時、少佐と相手はこの視線に気づいていたのかね?」  「いえ」  「分かった…では少佐、その時のことを詳しく説明せよ」  「はっ、分かりました」  草薙はその時のことを説明し始めた…。  彼女の説明は五日前に遡る…  「私に何か用か?」  彼女は自分宛に送られた送り主のない手紙を受け取り、その内容の指示によって浜松市街の路地裏に来た。そこには男が一人立っていた、『ダークギース』のドリスコルである。  「やあどうも、よく来て下さいましたね」  「挨拶はどうでもいい、用件を言え。そもそもお前は指名手配犯ではないのか」  彼女の言葉に対し、ドリスコルはニヤッと笑うと  「おやおや、それは貴方も似たような事ではないですかねぇ。まあ、貴方とお仲間がした事は恨みがかなり向けられている筈ですが」  と意味深な事を言う。  「何が言いたい?」  「では用件を言おう。この国で近々旧喪黒派による政権の奪回が行われる。お前達元『キルドレ』も参加し、しかるべき役職について面白おかしくやってみないか?」  と彼は口調を変えて用件を言った。  「…で?」  「乗り気にならねえか?そうだとしても軍部内を牽制できるはずだが」  「…断ると言ったら?」  「おいおい、お前達の事はとっくに調べがついてんだ。十年前、ある地域でやった戦闘機部隊での虐殺の事もな。まあ、お前達はいろんな所で虐殺をやっているからな。これがもし表沙汰になったらどうなるか分かるよな」  「脅迫か?」  「ちょっと違うな、事実を公表すると言ってんだよ。それともお前達が組織の復活を叫んでクーデターを起こそうとしているとでも流すか。お前達は嫌われ者だ、すぐに信用する連中なら…」  とドリスコルがそこまで言うと  「クックックック…」  と草薙は笑う。  「何がおかしい?」  「それで我々を引き込もうとしているのか?ならばやってみるがいい。我々は当に罪人である事ぐらい自覚している。どう非難されようが甘んじて受け入れる用意がある。それともテロリスト共がやったように我々を洗脳でもするか?」  「…いいだろう。今日のところは引き下がってやる、だがいずれお前達は参加せざるをえなくなる。それだけは言っておく」  ドリスコルがそう言うと草薙の前から姿を消した。一人残った彼女は呟く、  「…ここまで重いか…私の罪は…洗脳が解けてから少しずつ覚悟を固めていったのだがな…」  「…そういう事か」  元『キルドレ』の二人の尋問が終わった後、広志は白哉の執務室で主だった者達と草薙の報告の事を考察していた。  「奴等のことだ、すぐにでもデマを流すだろう。そのデマ対策は軍部内で統制しておく」  「頼むぞ、カイオウ。我々にはあの葉隠朧がいる、彼の一言は重いから動揺が起こってもすぐに沈静化するだろう」  「だがもう一つ気になる事があるのだが」  と広志が懸念を口にする。  「ヒロさんよ、何が気になるってんだ?」  と狂が尋ねる。  「この週刊誌の写真を撮ったカメラマンの事さ、もし『メビウス』なら…」  「なるほど、放っておかねえな」  「確か帝都新聞社発行だったな、これは」  「ならば一刻も早く帝都新聞社に警告し、なおかつそのカメラマンを保護せねば」  とトレーズが言う。  「そうだ、それは我がGINに任せてもらおう」  だがこの時、当の人物は既に『メビウス』に目を付けられていた。  「こ…これはどういう事ですか!?」  「フッ、お前達に恨みはないがとんでもない所を載せられちまったんでね」  「やれやれ、俺とした事が。ナツミカンの言った通りになっちまったな」  光写真館に突如現れた男達によって士、夏海、ジェス、夏海の祖父である栄次郎は銃を突きつけられ拘束された。  「するとこれを撮ったのはお前か」  と男の一人が士に週刊誌を見せる。そう、その写真に撮られたドリスコルだ。彼はアリー、浅倉、ヤイバと共に警察を装ってこの写真館に乗り込んできたのだ。  「そうだ、道理で見た事があると思ったら写真の人物はアンタか」  「そういう事だ、俺とした事がドジを踏んだよ」  「はあ、さっさと殺(や)っちまおうぜ。俺達の事を知ってしまった以上、生かしておくわけにはいかねえからな」  浅倉が銃をほお擦りしながら言う。  「まあ待て浅倉、殺すには殺すがあくまで見せしめという形にしておかねばならん。俺達があくまでアイツ等と組んでいるんだからな。俺達の欲望を満たす為に」  「欲望?そうか、お前達が例の放送を流した…!!」  「分かりがいいな。そうだ、だからお前達には死んでもらう」  「つ、士君、どうするんですか。まだ死にたくないです」  「と言われてもなあ…」  と夏海の心配をよそに士は淡々と言う。  「安心しろ、お前達は尊い犠牲になるのさ。俺達の輝かしい未来の為にな」  「まるでどこかの狂信者団体ですね。私達は生贄ですか」  「残念ながらな。なあに、あの世に行けるんだ、悪くはないだろ」  「冗談じゃありません!!止めて下さい!!」  「そりゃ無理だ、恨むんならこういう状況に導いたこのカメラマンかその場に居合わせた自分を恨むんだな」  果たして士達の運命は…。 作者・Neutralizer共同あとがき  今回第8集としてまとめた作品は過去「新生活日記」に掲載していたものに大幅に加筆修正したものです。  今日も世界各地でこうした闇で動く人々が今回の話のように善悪を超えて動いていることを我々は忘れてはなりません。73.5話は前半は私が書いたものですが後は我が盟友が独自の展開で書きました。『メビウス』と手を組んだ『ダークギース』に捕まった士達、彼らはこのまま殺されてしまうのか?次回をお楽しみに! 今回使った作品 ギャンブルフィッシュ (C)青山広美・山根和俊・秋田書店 スパイダーマン (C)マーベルコミックス 原作:スタン・リー 公権力横領捜査官 中坊林太郎 (C)原哲夫・佐高信(監修)・集英社 内閣権力犯罪強制捜査官 財前丈太郎 (C)北芝健・渡辺保裕・コアミックス 『ゴッドハンド輝』(C)山本航暉・講談社 「クロサギ」 (C)黒丸・夏原武・小学館 『特命!刑事どん亀』:(C)TBS・テレパック 2006 『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫/東映映画 集英社 1983 『新機動戦記ガンダムW』:(C)サンライズ・創通 1995 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY ASTRAY』:(C)千葉智宏・ときた洸一 角川書店 2005 『機動戦士ガンダム00』:(C)サンライズ・創通 2007 『ミラクルガールズ』:(C)秋本奈美 講談社 1990 『BLEACH』:(C)久保帯人 集英社 2001 『スカイ・クロラ』:(C)森博嗣 2001 『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997 『SAMURAI DEEPER KYO』:(C)上条明峰 講談社 1996 『マクロスF(フロンティア)』:(C)河森正治・スタジオぬえ 2008 『覚悟のススメ』:(C)山口貴由 秋田書店 1994 『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939 『ハンマーセッション!』:(C)小金丸大和・八津弘幸 漫画:棚橋なもしろ 講談社 2006 特捜戦隊デカレンジャー (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー (その他にも超獣戦隊ライブマン、轟轟戦隊ボウケンジャーも同じ) 日掛け金融地獄伝 こまねずみ常次朗 原案・青木雄二 原作:秋月戸市 作画:吉本浩二 小学館 アキハバラ@DEEP (C)石田衣良・文藝春秋 サイボーグ009 (C)石森章太郎・石森プロ CHANGE (C)フジテレビ ストロベリーナイトシリーズ (C)誉田哲也 スシ王子! (C)堤幸彦・テレビ朝日、オフィスクレッシェンド まじかるタルルートくん (C)江川達也・集英社 ゴルゴ13 (C)さいとうたかを・リイド社 傷だらけの仁清 (C)猿渡哲也・集英社 ノノノノ (C)岡本倫・集英社 セイギのミカタ (C)山口譲司・集英社 「クロサギ」 (C)黒丸・夏原武・小学館 『さよなら、小津先生』 (C)フジテレビ 喪黒福次郎の仕事 (C)藤子不二雄A・文芸春秋  1997 『つぼみの時間』 (C)克・亜樹 竹書房 それゆけ!宇宙戦艦ヤマモトヨーコ (C)庄司卓 『仮面ライダー』シリーズ:(C)原作:石ノ森章太郎 東映・テレビ朝日・ADK・東映エージェンシー 2002・2009 スーパーロボット大戦シリーズ (C)ナムコバンダイゲームズ(バンプレストレーベルより) [シバトラ]  (C)安童夕馬/朝基まさし・講談社 『Mr.ブルックス 完璧なる殺人』  監督:ブルース・A・エヴァンス  配給:MGM  2007 『ギミック! 』 (C) 原作・金成陽三郎 作画・薮口黒子・集英社 聖闘士星矢 ロストキャンバス (C)原作・車田正美 作画 秋田書店