真実の礎 SEASON2 Change The Destiny エピソード5 忍び寄る暗殺者の影 (小野哲・Neutralizer合作)  ここは東京・江東区…。  ウッソ・エヴィンはレストラン『ヤナギラン』に入っていく。彼は大学進学を視野に入れて中学時代から京葉大学助手の数学者のもとで勉強をしていた。 「ウッソ、ちょうどいい時に来たわね」 「父さんも母さんも遅くなってごめんなさい。マリア先生にクロノクル先生、カテジナ先生にシャクティも…」 「気にしてはいないさ、君の事情はよく知っている」 「後でウッソからテキストをコピーしてもらうからね」  シャクティがにこっと笑う。父親がインド人で、それゆえなのか数学に長けており、時にはウッソも驚くほどだ。またおもに技術に詳しく、ウッソの母親のミューラからよく技術の話を聞いている。カテジナが言う。 「小さい頃が懐かしいほどね」 「僕は小さい頃から『パズル』ばかりしてきて、不思議な感じですよ、カテジナさん」 「だが、そんな君にも同年代の友はいる。孤立せずに済んでよかった」 「そうだ…」  ハンゲルク(ウッソの父、日本連合共和国法務省事務次官補佐)が口火を開く。 「実は近々、京葉大学に通う学生が来ることになった。ウッソはどうかな」 「悪くはないと思うよ。その人は?」 「海外経験もある人だ。英語も堪能だ。ただ…」  ハンゲルクは思わず口ごもった。その人物はいろいろな複雑な事情を抱えた人物だからだ。そのことを知らないウッソとシャクティは言う。 「そんな人でもいいじゃないですか」 「そうだな。既に母さんには話はしていて了解を得ているが、お前の意見も参考にする必要があると思ってな。受け入れよう」 「だが、気にかかることがある」 「クロノクルくん」 「この前エンジェル・ハイロゥをやめた4人のこと?」  マリアが聞く。無言でうなづくとクロノクルは言う。ハンゲルクとクロノクルは師弟関係にあるのだ。 「彼らはある秘密組織の一員ではないじゃないですか…」 「GINのことか?」 「GINは公の捜査機関、アメリカで言うCIAですか。それとは違う機関じゃ…」 「彼らの素性は直接見ていないので分からないが…。たとえ知っていても言えないのが現実だ。そのことに関しては高野君から釘を刺されているのでね」  クロノクルにハンゲルクはいう。広志とハンゲルクは仕事柄知り合いであるのだ。  ここで話を喪黒が壬生国の政権を取る前夜にまで遡り、ゼーラにいる拳志郎の行動に目を向けることにする…。 「…ここまでひどいとはな…」  その夜、松江にある旅館に泊まっていた拳志郎はノートパソコンでCP9について今まで取材してきた情報の整理を行っていた。ジュウザが襲撃され、負傷した事件以降、彼はゼーラ中を回ってクラクラ病やエニエス・ゴードムといった不完全な薬の被害状況を被害者やCP9の社員で密かに不平を持っている人達から聞き出していた。 (…これだけではまだ足りないな。もう少し取材を続けた方がいいかもしれないが…明日の壬生国の選挙の事も気になる…)  『週刊北斗』に載せる記事を推敲しながら考えていると彼の携帯が鳴った。 「もしもし」 『あっ、ケンか。俺だ、バットだ』 「おう、バットか」  電話の相手は壬生国で取材をしているバットだった。 「そっちはどうだ?」 『ああ、やはり喪黒の政党の支持率が圧倒的だ。国内の誰に訊いても奴に期待を寄せてやがる』 「…そうか、当選は確実か…」 『ああ、それとカイオウの地下組織が動き出したぞ』 「だろうな、喪黒の本性を知っているのは彼等だけだからな」 『それだけじゃない、逆十字会ってとこ知ってるだろ。あそこも地下組織と組んで動き出した』 「…そうか、あそこの元理事長はカイオウの側近の一人だったからな。諫言を呈して疎遠になっていたが戻ってきたか」 『それともう一つ、近々アメリカが戦争しかけるらしいって情報を聞いたぜ』 「相手は?」 『エズフィトだ。何でも先の戦争でテロリスト共を後援していたって名目で侵攻するそうだが…どう見てもでっちあげだな』 「当然だ、あそこは経済的にも豊かな所だ。大国として陰りが出てきているアメリカにとっては目障りだろうな」 『ところでケンの方は?』 「こっちも例の二つの薬による被害だけでなく公害病の被害もひどいぞ。『クラクラ病』は知ってるな」 『ああ、工業排水の垂れ流しで起きているあれだな。関東連合でも市川で被害が出てるっていうじゃないか、ジュウザの所に一度見舞いに行った時に聞いたけどさ、姫矢さんを知ってるだろ、彼が今それを追ってるんだってさ』 「なるほどな、姫矢だけじゃなく反町も黙ってはいまい」 『そうだな、んでリブゲートとCP9のつながりの方はどうなんだよ?』 「それだが仲立ちかつ金庫番になっている所を突き止めた」 『どこだい?』 「三洋銀行だ、そこにはさっきの2社だけでなくマードック社の資金も洗浄しているというぞ」 『ロンダリングかよ、やばいなそこ』 「そうだ、俺は奴等の金の流れをもう少し深く探ってみる。二、三日したら会社に戻る」 『分かった、俺もリンと奴等を探る。じゃあな』 「ああ、お互いに警戒心は緩めないようにしよう」 と言って彼は携帯を切る。しばらく記事をまとめているとまた携帯がなった。 「もしもし」 『拳志郎か、ラオウだ』  今度の相手はラオウだった。 「体調はどうだ?」 『フッ、うぬにまで体調を心配されるようでは俺も躍起が回ったな。今はすこぶる良い』 「そうか、それで用件は?」 『うむ、兄者の地下組織が動いたことは聞いておろう』 「ああ、バットから聞いた」 『ならば話が早い、その地下組織にドルネロから資金援助がきた』 「ドルネロ…あのドン・ドルネロか」 『そうだ、あ奴は壬生国の不適格米を高く買い取ってくれた際に俺と兄者で仲介したからな。その縁もあって援助を申し出てくれたわけだ』 「そうか、ならば心強い」 『それと地下組織のメンバーの一人がGINの諜報員と接触してな、影ながらの支援や情報提供を受けられるようになった』 「…よくあのGINから支援を受けられたな」 『うむ、一応あのジャギを預けて更正させてもらっているわけだからな…ところでうぬはあの高野広志という男をどこまで知っている?』 「さあな…先のテロリストとの戦争で活躍し、その後GINを設立してCEOになったところまでは誰もが知っているが…彼のことを取材したバットには訊かなかったのか?」 『うむ、一度尋ねたが…まだ謎が多い人物だそうだな』 「ああ、まだ機密になっているものが多い」 『…そうか、分かった。ではこれで失礼する』 「ああ、体を厭えよ」 と言って再び携帯を切り、記事をまとめ上げると会社に送信してその日は就寝した…。  翌日の朝…。 「遂に取ったか…壬生国を…」  拳志郎は旅館のテレビで喪黒が壬生国の政権を取ったことを知った。 (どうやら取材を切り上げる時がきたようだな)  彼は朝食を済ませると身支度を整えて旅館を後にした…。   その一時間後…、ヴァルハラ松江病院では…。 「ネロさん、私達が分かりますか?」 「シャ…シャウ…よく分かる…シャウ」  あのひき逃げによって肋骨を何本か折る重傷を負ったCP9製薬工場職員のネロが意識を取り戻していた。彼が寝ているベッドの傍らには看護師とあの南光太郎、秋月信彦がいた。 「よう、生き延びたな」 と声をかける光太郎。 「シャウ…南か…シャウ」 「心配したぜ、お前が氷室に目をつけられた時に何かあると思ってたからな」 「そ…そうか…シャウ」  そう言うとネロの目から涙が流れた。 「どうした?」 「…く…くやしいシャウ…俺が…俺があの毒物の混入先を突き止めようとしていたのに夢中になるあまり…こんなザマだ…シャウ」 「分かるぞ、お前は製薬の仕事が好きだったからなあ。だから中途半端な薬を作って市場に流すのが耐えられなかったんだろ」 「シャウ…秋月…その通りだ…シャウウウ…」  信彦の言葉に彼は何度も頷き、泣いた。 「おいネロ、泣きたくなる気持ちは分かるが俺達の質問に答えてくれないか。上層部の暴走を止める為にもお前が見たもの全てを知りたいんだ」 と言って光太郎はネロの涙をハンカチで拭く。 「…す、すまねえ…シャウ。あれのことだな、シャウ」 「そうだ、例のクラクラ病の原因になっているジエチレングリコールはどこで使われてるやつだ?」 「あ、あれは機械の潤滑剤だシャウ。あれを流しているホースの一部が古くなっていて…その切れ目から流れ出たやつだシャウ」 「何だって!?それが薬の製造過程で…」 「ああ、混入されてるシャウ。最初に気づいた時に…工場長に報告したんだが…聞いてくれなかったシャウ」 「…何の対策もとらなかったというのか」 「そうだ…シャウ。俺はその箇所を密かに応急処置を施しておいたが…他にも同じ箇所があったせいか被害が…絶えなかったシャウ。そこで…俺は何とかしようと…あれが漏れて薬に混入されてる箇所を探していたんだシャウ」 「そこをあの日、工場を視察に来た氷室に見られたってわけか」 「光太郎」 と不意に信彦が声をかけて病室の入り口を親指で指差す。 「!?」  光太郎が振り向くと誰もいなかった。 「誰かいたのか?」 「ああ、俺達の話をあそこから聞いていた奴がいた。警戒を強めたほうがいいな」 「…な…何の話だシャウ」  二人の話を聞いていたネロが尋ねる。 「俺達の話を聞いてた奴に信彦が気づいた。恐らく上層部からの奴だろう、今日一日俺達も空いているからお前に付き添う。お前に何かあったら困るからな」 「す…すまねえシャウ」  ネロの目にまた涙が浮かぶ。 「おいおい、泣くことはないだろう。俺達は同志なんだからさ」 と光太郎がまた彼の涙を拭く。その間に信彦は病室を出て廊下で携帯を取り出してかける。 「もしもし、秋月です。至急、応援をよこして下さい。できれば…」  時間を再び喪黒が壬生国の政権を取る前夜にまで戻す…。 「200万!!」 「100万!!」 「いや、50万出してくれたらやるぞ!!」  ここは大阪、道頓堀の近くに構えるとあるビルの地下室…。  この地下室のとある一角で競売が行われていた。だがただの競売ではない、なんと殺し屋達による標的になる人物の暗殺を競売にかけていたのである。 「は~い、じゃあ貴方に決まりね」  ピンクのセミショートの髪型をし、胸元を露にした色っぽい服装をした女性が一人の男をウィンクしながら指差す。 「よっしゃあ!!」 とその男が叫ぶ。 「それじゃ次、この男の暗殺、いくらで引き受ける?」 と女が競売場に取り付けられているモニターに目を向けながら殺し屋達に言う。そのモニターには拳志郎の顔が出ていた。 「おお~っ!!」 と殺し屋達からどよめきが上がり 「こいつは大物じゃねえか!!1000万なら殺ってやるぜ!!」 「おい!!そんなんで足りるか!!5000万出せ!!それでなら殺ってやる!!」 と殺し屋達が金額を示している中、女の携帯がブルブルと震える。 「は~い、もしもし」 『こんばんわ、周りが煩いところをみると相当盛り上がっているようですね』 「ええ、ミスターブラックトレーダー。相手は何せあの霞拳志郎ですからね、喉から手が出るほどの大物ですから」 『フフフ、そうですか。その霞拳志郎ですが申し訳ないが貴方の妹に暗殺を頼みたい』 「え~、それはいきなりですね。困っちゃったなあ~」 『ご心配なく、標的はその拳志郎に次ぐ大物はおりますからねえ。その人物は私がピックアップして貴方にお送りしておきましたからそれで我慢していただくよう彼等を説得していただきたい』 「う~ん、何とかやってみますけど期待しないで下さいね」 『大丈夫、貴方なら出来ると信じてますよ。ああそうそう、先にスモーカーとタシギの暗殺も彼女で頼みますよミスポワトリン』  電話が切れると彼女は会場にいた殺し屋達に向かい 「ごめんなさ~い!この霞拳志郎なんだけど~先約ができちゃいました~!」 と告げた。 「何ーっ!!?」 「ふざけんなぁーー!!」  当然、殺し屋達から怒号が上がる。 「ほんとごめんなさいね、その代わりに~こちらの大物を標的にしま~す」 と別の人物をモニターに出した。 「…チッ、しょうがねえなあ」 「冗談じゃねえ!!俺達じゃ拳志郎を殺せねえってのかよ!!」  殺し屋達からは賛否両論の声が上がり、中には会場を出て行く者もいた。そんな彼等を無視して件の女は携帯で彼女の妹に電話をかけた。 「あ、もしもし。悪いんだけどミスターブラックトレーダーが貴方を直接指名してきたのよ。…うん、標的は三人。写真を送っておくからゼーラに飛んで」  話を再び喪黒が政権を取った日のゼーラに戻す…。   「課長、あのネロが意識を取り戻したと研究所職員の南さんから連絡が来ました」 「そうか、そりゃ何よりだ」  あの庶務課の二人、スモーカーとタシギは松江の中心街にある居酒屋にいた。この店は二人の行きつけでもある。 「それにしても遂にあの男が壬生国の…」 「ああ、これからあの国はおかしくなっていきやがるぞ。当然、あの馬鹿社長は高笑いだろうがな」  二人は鮫の刺身を肴にビールを飲みながら話す。 「ところでさっきの話に戻るが南の奴、ネロから何か訊いてるか言ってなかったか?」 「はい、メールで送られてきましたけど、彼によれば機械の潤滑剤として使われているジエチレングリコールが機械のホースで切れ目がある所から漏れていたそうです」 「なるほどな、それをほったらかしだって言うんだな」 「はい、その応急処置をしていただけでなく他に漏れている箇所をさがしているところをあの日見られて…」 「ひき逃げにあったというわけか」 「はい」 「そうか…ところでタシギ」 「はい、課長」 「お前、また眼鏡をかけてねえな。俺の斜め後ろの他人に向かって話しかけてんじゃねえ!」 「え!?あ、す、すみません!」  スモーカーに注意された彼女は慌てて眼鏡をかけ直す。因みに二人の席は奥の座敷席である。 「…ったく、その癖何とかならねえのか!?」 「すみません…」 「もういい、ビールじゃなくて酒にするか。お~い!そこの姉ちゃん!」 とスモーカーは通りかかった女性店員を呼ぶ。 「はい、ご注文ですか?」 「おう、日本酒2合もらおうか」 「はい、かしこまりました。少々お待ちください」 と言って女性店員は去っていった。 「5番テーブルさん、日本酒2合入りました~!」 「あいよ~!!」  厨房ではスモーカーが注文した日本酒が徳利に入れられて用意される。そこへ金髪でつり目がちの女性店員が徳利をお盆に乗せる。 「おう、リナちゃん、5番テーブルにお願いね」 「はい」 と『リナ』と呼ばれた彼女は他の店員が後ろを振り向いた隙に手に隠し持っていた小瓶の蓋を開け、中身を徳利に一滴垂らした。それから何事もなかったかのように運んでいった。 「お待たせいたしました」 「おう、来たか」 「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」 「ああ、また後でな」 「かしこまりました、ごゆっくりどうぞ」  運んできた徳利をテーブルの上に置くと店員は去っていく。 「課長、まずは」 「おう」  タシギは運ばれてきた徳利を傾けてスモーカーが差し出した杯に酒を注ぐ。 「お前も飲め」 「はい」  スモーカーも同じように彼女の杯に注ぐ。が彼女が酒を飲み干そうとしたその時、突然横から杯を持っていた腕をガシッと掴まれた。それはスモーカーも同じだった。 「な、何ですか貴方は!?」 「何しやがる!?放せ!」  二人が顔を向けるとそこには一人の男がいた。 「申し訳ないがその酒を飲むのはやめたほうがいい」 「何!?」 「どういうことですか!?」  二人は訊き返す。 「その酒には何かが混ざっている。毒かもしれん」 「!?」  男の突飛な発言に二人は驚く。 「ふざけないで下さい!!冗談にもほどが」 「いや、冗談ではない。信じる信じないも死ぬのも勝手だが」 「な、何を馬鹿なことを!!」 とタシギが反論するが 「待て、おい今言ったこと本当なんだな!?」 とスモーカーが彼女を制して聞き返す。 「ああ、試してみるか?」 「……」  男と二人は一時にらみあったが 「…はっ、面白い。タシギ、飲むのをやめろ。信じてみようじゃねえか、こいつを」 と笑って杯を置いた。 「課長!本気ですか!?」 「いいから杯を置け!おい!店員さんよ!」 とスモーカーが店員を呼ぶと別の男性店員が来る。 「はい、お待たせいたしました」 「おう、さっき頼んだ酒だがな、この男が何か入ってるって言うんだ。悪りぃが取り替えてくれねえか」 「は、はい…かしこまりました」  店員は怪訝な顔をして徳利と杯を持っていった。  数分後… 「お待たせ致しました」 と先ほど酒を運んできた女性店員が新しい酒が入った徳利と杯を持ってきた。 「おう、ありがとよ」 とテーブルに置かれた徳利をスモーカーが手に取ろうとすると 「待て!」 と二人に酒を飲むのを止めた男が制する。 「何だ、何か臭うのか?」 「ああ、君、何故同じ酒を持ってきた?」 と男が彼女に尋ねる。 「え!?先ほどの酒とは取り替えましたけれども…」 「いや、同じだ。かすかだが同じ異臭がする」 「そ、そんなことは!」 「俺は鼻がいいんでね、どんなかすかな臭いでも分かる。もう一度取り替えてもらおうか」 「お客様!!言いがかりはやめて下さい!!」 「ならば君ではなく別の店員に取り替えてもらおうか」 「それは…」 「あのお客様、何事ですか?」 と別の店員が駆けつける。 「すまないが店長を呼んでくれ。心配するな、クレームをつけようと言うわけではない」 「は、はい、かしこまりました」  店員は一旦去ると店長を呼んできた。 「お客様、彼女が何か…」 「いや、この酒から異臭がするんでね。取り替えてもらおうとしたのだが運ばれてきた酒の中身が最初のと同じ異臭がする。取り替えてくれないか」 「え!?本当ですか?」 「店長!!私はちゃんと…」 「いいから黙ってなさい!とにかくもう一度お取替えはさせていただきます、申し訳ありません」 と店長は言い返そうとした女性店員を制して男に謝る。 「こちらこそすまないな、ご迷惑をおかけした」 と男も店長に謝る。 「いいえ、とんでもございません。ほら、すぐに新しいのと取り替えて!」 と店長が店員に指示を出すと 「ああ、ついでで申し訳ないのだが」 「はい」 「今度の酒はあの女性ではなく別の店員に持ってきてもらえないか。彼女が運んできた時に異臭のする酒が来るから」 と男が言う。 「は、はい、かしこまりました。直ちに」 と店長は答えて厨房へ去っていった。  更に数分後、 「申し訳ありません、お待たせいたしました」 と今度は店長自ら酒を運んできた。男は置かれた徳利に鼻を近づける。 「…今度は大丈夫だ。すまなかったな、手間を取らせて」 「いいえ、とんでもございません。それではごゆっくり」 と店長はホッとした表情で去っていく。 「さてと、やっと飲めるな。タシギ」 「は…はい…」  タシギは酒を杯に注ぐ。 「おい、テメエも一杯やれ」 「ああ、もらおうか」  男も杯を取り、スモーカーが酒を注ぐ。それから三人揃って飲み干す。 「ああ~、うめえ!そういやあテメエが誰だか訊いてなかったな」 「そうだな、お互いまだ名を名乗ってなかったな」 と男は名刺を二人に差し出した。 「課長!!この人…」 「ああ、霞拳志郎…遂に来やがったな、俺の所に」  そう、二人の酒を二度も取り替えさせたのは拳志郎だった。 「貴方がたの名はガジャ博士から聞いている」 「おう、あの爺さんか。噂によりゃあアカデミアに行ったそうじゃねえか」 「ああ、今データを盗み取られた薬の調整を続けている」 「だろうな、馬鹿共が売り上げのみに固執してるからな」 「ところで二人は内部告発を計画していると博士から聞いてるが」 「ええ、確かに。『エニエス』・『ゴードム』の被害はおろか会社内部での社員の扱いの酷さは貴方もご存知なのでは?」 「ああ、クラクラ病のこともな。俺はその取材に来た」 「ならば話が早ええ。おい、今まで集めた証拠を一部見せてやれ」 「はい」 とタシギは答えると小型のノートパソコンを取り出して起動させ、拳志郎に内部調査で手に入れた証拠を見せる。拳志郎はスモーカーと共に外から見られないようにして画面を覗き込んだ。 「なるほど…パワハラ、セクハラ何でもござれか…」 「ああ、特に第一営業部がひどくてよ、このモーガンって男の力づくぶりに自殺者まで出る有様だ」 「製薬工場でも同じ事です、拳志郎さん、この工場の職員が一人轢き逃げに遭ったことはご存知ですか?」 「ああ、ニュースで知った」 「その轢き逃げは会社の上層部の口封じです。今朝、意識を回復しましたが被害者の職員によれば機械の潤滑油として使われているジエチレングリコールが古くなったホースの切れ目から漏れているそうです」 「!それが薬に」 「ええ、混入されているそうです」 「ということは薬だけでなく」 「当然、排水にも混ざっていることにもなります」 「そういう経緯か…」 「お前、CP9の実態を暴きてえんだろ。この証拠はコピーしてお前にやるぜ」 「そうしてもらえると助かる」 「では早速」 とタシギは一枚のSDカードとカードリーダーを取り出すとノートパソコンに接続してカードに証拠をコピーして拳志郎に渡した。 「ありがとう。もしよろしければもう少し詳しい実態などを聞きたい」 「いいだろう、だがここはさっきの事もある。店を変えて話そうじゃねえか」 「いいとも、ああ、ここの飲み代は俺に支払わせてくれ」 「い、いやしかし…」 「いや、これは俺の店と貴方がたへの迷惑料として支払わせて欲しい」 「課長…」 「いいじゃねえか、好きにさせてやれ」 と三人が言いながら店を出ようとした時、 「そのお支払い、私にさせていただけませんか?」 と一人の女が近づき、伝票を手にする。 「?」 「誰だ、今度は?」  三人が怪訝な顔をすると 「ここでは故あって身分は明かせませんがここのお支払いはお任せいただきたい」 と女はレジに向かい、彼等の飲み代を支払った。 「…課長」 「今日はよく人が近づいてくるなあ」  スモーカーは頭を軽く掻く。 「皆さん、私について来ていただけますか。車をご用意してありますので」 と女が店を出て行く。 「…どうする?」 「ついて行くしかねえだろ、拳志郎さんよ」  三人は店を出る、すると店の外に一台の立派な車が止まっていた。 「どうぞ、こちらへ」  女が後部座席のドアを開けて三人を乗せると彼女は運転席に座り、車を発進させた…。  同じ頃… 「先輩、遅くなっちゃいましたね」 「ええ、でもかなり濃い情報は取れたわ」  あのベルナリデリ保険会社の社員、メリル・ストライプとミリィ・トンプソンはこの日もクラクラ病の被害者やCP9の社員で密かに反感を持っている者達から情報を集め回っていた。 「それにしてもひどいものですね、工場も会社も」 「杜撰・放漫・ハラスメント、どの言葉もぴったり当てはまるわ」 「とにかく急いで会社に戻りましょう」 「ええ、あの課長に何言われるか分かったものじゃないわ」  そんなことを言いながら二人は帰りを急ぐ。その時、不意にメリルが立ち止まった。 「先輩?」 とミリィが話しかけると彼女は後ろを振り返る。 「どうしたんですか?」 「いえ、何でもないわ」  顔を前に戻したメリルは再び歩き出す。ミリィも彼女について行く。が 「!?」  彼女は再び立ち止まり、後ろを振り返る。 「…先輩?後ろに何かあるんですか?」 「…おかしいわ、さっきから誰かがついてきてるような気が…」 「え!?」 「…気のせいかもしれないし…ミリィ、道を変えるわよ」 「は、はい」  二人は道を変えて会社に向かって歩いていく。がメリルはまだ後ろを気にしていた。 「まだついてきてるんですか?」 「ええ、でも前か横からも現れるとは限らないわよ」 「どうしましょう…」  ミリィが辺りを見渡す、すると一軒の小さな喫茶店が目に留まった。 「先輩!あそこ」  彼女はメリルの袖を引く。 「なるほどね、行きましょう!」 「はい、先輩」  二人はその喫茶店に急ぎ足で入っていった。 (…来たな)  その禿頭の女性は物陰から二人の女性をつけている男達を見ていた。やがて女性達は喫茶店に入ろうとする、男達が捕まえようとしたその時、女は男達の前に飛び出す。 「な、何だお前は!?」 「それはこっちの台詞さ。あの二人には手を出させないよ」 「何をぉ!!」  男達は女に襲い掛かった。 「…ふう、どうやら助かりましたね」 「ええ、ここでしばらくやり過ごしましょう…」  喫茶店に入った二人はカウンターに座り、一息ついた。コーヒーを注文し飲みながらくつろいでいると ガチャ チリ~ン、チリ~ン と店のドアが開き、一人の変わった髪形をした女性が入ってきた。 「先輩、あの人の髪型…」 「ホント、珍しいわねぇ…。流行ってるのかしら…?」 と二人が小声で話していると女が二人が座っているカウンターに近づき、隣に座るや否や 「貴方達、もう大丈夫よ」 と微笑みながら話しかけてきた。 「!?」 「どういうことです?」 と二人が尋ねると 「貴方達、つけられてたでしょ」 「!?いきなり何を」 「驚かせてごめんなさい、私の名はアソーカ、アソーカ・タノというの」 「え!?」 「訳あって貴方達を保護しに来たわ。ここは私が払うからついて来て」 「あ、あのう…貴方は一体どういう…」 「悪いけど詳しいことはここでは言えない。安全な場所に案内するわ。あ、付けてきた連中は私の仲間が止めているはずよ」 「先輩、どうします?」  ミリィの問いにメリルは数秒考えていたが 「本当に貴方が案内してくれる場所は私達にとって安全なんですね?」 と『アソーカ』と名乗った女に尋ねる。 「もちろんよ、信じてみる?」 「…いいでしょう。そこまで仰るのならば」 「決まりね。マスター、お勘定お願いね」  アソーカは二人のコーヒー代を店のマスターに支払うと二人を伴って外に出た。 「う…うう…」 「フン!大したことないねぇ…」  外にいた禿頭の女は男達を全員叩きのめしていた。そこへ彼女の携帯が鳴る。 「アソーカかい?連中は始末したよ」 『まさか殺したんじゃないでしょうね?アサージ』 「ハッ、そんなことするかい!一人残らず半殺しにしてやったさ。こいつ等、大事な生き証人だからねぇ…」 『そう、ならいいけど。こっちは例の二人と接触したわ、今から伯爵の所に連れて行く』 「OK、こっちもこいつ等を引っ張っていくさ」 『大丈夫なの?全員連れていくつもり?』 「まあ、一人二人ぐらいだろうねえ。後の連中は逃がしてやるさ」 『じゃ、後始末はお願いね』 「あいよ」  電話は切れる。『アサージ』と電話で呼ばれた女は倒れていた男達の一人の髪を掴んで顔を近づける。 「おい!」 「な…何…だ…」 「お前には来てもらうよ。訊きたい事が山ほどあるんでね…」 「…」 「安心しな、殺さないよ。他の連中もだ。どうせ戻っても殺されるのがオチだろうがね」 「…」 「とっとと立ちな!ちょっとばかし歩いてもらうよ。近くに車止めてあるんでね」  そういうと彼女は男を立たせ、肩で担ぐ。それから他の男達の腹を蹴って回りながら 「オラ!お前達もだよ、とっとと失せな!」 と言い放った。 「く、くそ…」 「お…覚えてやがれ…」  男達は捨て台詞を言いながら彼女の前から歩いて去っていった。 「おい、俺達を一体どこまで連れて行くんだよ」  スモーカーは女に話しかける。  車を運転する女はにこりと笑うと無言で運転を続ける。そして車はまるで工場のような場所に入っていく。そして一軒の家に車は停まった。 「お前はいったい何者か」 「ここでなら、ようやく私の身元をお話できます」  そういうとボブカットの女性は身元証明書を提示する。 「私は公権力乱用査察監視機構・ゼーラ支部に所属しています山中真雪です。あなた方のことはある方々から事情を伺っています」 「一体どういうことだ」 「驚いているようですね」  そこへ現れた大男に拳志郎は驚いた。 「桑田福助…!!」 「ええ、私の方から情報を伝えておきまして、何か有事があれば対応するよう要請しておきました」 「私達は10年前のアジア戦争でイムソムニア・シャドーアライアンスと戦って来ました。その後高野が公権力乱用査察監視機構を立ち上げた際に加入させていただきました」 「ここに入れば、安心です。事情をすべてなんなりと明かしてください」  桑田は車の後部座席のドアを開け、三人を降ろすと邸宅へと彼等を導いた。 「ようこそ、我が屋敷へ」  玄関で出迎えた品のある男がスモーカー、タシギ、拳志郎に握手を求める。 「私はドゥークー伯爵である。パルパティーン議長直属の情報機関『シス』の責任者だ」 「霞拳志郎です。俺達になぜここまで…」 「あなたをサポートすることが公害を止めることにつながる他、CP9の権力犯罪を止めることにもなると判断したからですよ」  福助はにこりと笑うとドゥークーに目配せする。福助の底知れぬ情報能力に拳志郎は脅威すら覚えた。 「それ故、我々『シス』とGINは水面下で協力することにし、そこの二人のような権力犯罪に立ち向かう者達の身の安全を確保することにしたのだよ」 「なるほどねえ」 と納得するスモーカー。 「では詳しい事は奥で話すとしよう、我が『シス』のメンバー他、客が多く来るのでな」  ドゥークーはそう言うと福助と共に三人を奥の部屋に導いた。  ガチャ (よし…)  その数十分後、ヴァルハラ松江病院のネロのいる病室に一人の医者が音も立てずに入ってきた。部屋は消灯時間で真っ暗である。 (…)  医者の手は白衣のポケットの中だ。彼はネロが寝ているベッドに近づくとポケットから注射器を取り出すともう片方のポケットから薬の小瓶を取り出し、注射器を刺して薬を吸いだす。それから寝ているネロの腕を掴んで出し、注射しようとした。だが突然その手が医者の腕をガシッと掴んだ。それと同時に注射器を持っていた手を後ろから掴まれる。 「!?」  医者が驚くと同時に病室の明かりがついた。 「残念だったな」 「お、お前は!?」  医者の目の前でベッドから起き上がったのはネロではなかった。そこにいたのは信彦だった。 「こ…これは一体!?」 「フッ、間抜けな暗殺者だな。こんな偽装にまんまとひっかかりやがって」 「何!?」 「その薬で殺そうとしていたわけか」 と後ろから光太郎が言う。 「…クソッ!!」 「さあて一緒に来てもらうぞ」 と信彦が言った途端、医者に化けた暗殺者は二人の手を振り解いて自分の腕に注射しようとしたが 「痛てててて!!」  光太郎に注射を持っていた手を再び掴まれた挙句、捻られて注射器を落とした。 「おっと死なせるわけにはいかん。おい」 「ああ」 と信彦は暗殺者の衣服のポケットの全てに手を入れて携帯を探し当てた。 「さて、お前には一仕事してもらうぞ」 「な…何をしろ…と」 「依頼人に電話してもらおうか」 「だ…誰が…痛てててて!!」  拒否した彼は光太郎に更に腕を捻られる。 「そうはいかん、電話番号を教えろ。いやなら履歴から調べさせてもらうぞ。俺達を甘く見るな」 「調べて…どうしようってんだ、痛てててて!!」 「なあに、俺達の言うとおりに依頼人に言うだけだ、『標的は始末しました』ってな」 「何!?」 「さあ、今すぐ掛けろ」 「そうか、終わったか。ならこっちもすぐに手を施す」  光太郎達のいる病室の隣に連絡を受けた男、高遠遙一とネロはいた。 「安心しろ、殺し屋は捕まえたぞ」 「お、お前は一体何者だシャウ…お前だけじゃない、秋月といい南といい…どうしてここまでしてくれるんだ…シャウ」 「詳しいことは言えないな、まあこのお粥でも食べておけ」 と高遠は粥が入った器を盆に乗せてベッドのサイドテーブルに置き、匙を取ってネロの口に運ぶ。 「…」 「心配するな、毒は入ってない」 「シャ…シャウ…」  ネロは戸惑いながらも粥を口にする。しばらくすると 「な…何だ…シャウ。何か…」 「すまないな、ある特殊な薬を混ぜさせてもらった」 「!?」 「心配するな、毒じゃないって言っただろ。睡眠薬みたいなものだ」 「…」  ネロは目がうつろになり高遠の言葉を聞き取れないようだった。そのまま眠りにつく。彼の腕を高遠が掴む。 「…よし、下がり始めたな。後は」  高遠は光太郎に連絡を入れる。 「俺だ、彼に例の薬を飲ませた。仮死状態になるまでちょっと時間がかかる。…ああ、後はあの先生に協力してもらって、彼を連れてくる。…そうか、なら作戦成功だな」 「…御臨終です」  内線で高遠に呼ばれた医師、西条カズヤはネロの脈をとり、そう宣告した。 「…なんてこった、折角の生き証人だったのに…」 「仕方ないさ、あれだけの骨折に出血だ。一時期生きてたとしても不思議じゃない」 「では、後はお願いします」 「分かりました」  高遠と西条は病室を出る。それから二人は廊下で別れ、高遠はロビーのソファに座ってじっとしていると彼の携帯が鳴る。 「高遠です」 『西条だ、搬送の準備は整った。車を持ってきたまえ』 「了解しました」  高遠は携帯を切ると駐車場に行き、停めてあった車に乗って発進させる。この車はワンボックスカーであり、横に『ゼーラ葬儀会社』と書かれてあった。車は病院の裏手に回り、搬送口にバックで停める。その時、搬送口の戸が開き、西条と数人の看護士が遺体を搬送してきた。 「ご苦労、遺族への搬送よろしく頼む」 「お任せ下さい」 と高遠は言い、真後ろのドアを開けて遺体を車に乗せ、再びドアを閉めると車を発進させた。 そしてワゴンの中では…。 「アサージ、彼一人で大丈夫かしら」 「はっ、大丈夫さ。コイツは後で痛みつけて何もかもゲロってもらうさ」 「過激すぎです…」  メリルは震えるミリィをなだめながらもアソーカに聞く。 「あなた方は一体…」 「もうそろそろつく頃ね…」  笑顔を浮かべると車は敷地内に入る。 「私はアサージ・ヴェントレスっていうんだ。よろしく」 「私達はここで降りなくちゃいけないの、事情聴取でね。後はマラが引き受けてくれるわ」  そう言うと女性がアソーカに代わって車のハンドルを握る。アサージは男をワゴンから引きずり出すと、アソーカと一緒に事情聴取をするために部屋へと向かっていく。更に白衣の男が乗り込む。 「GINゼーラ支部所属、岩瀬健人です。表向きは岩瀬アニマルクリニックで院長を務めています」 「私はマラ・ジェイドよ。あなた方のことはGINから聞いていたわ」 「GIN!?」  メリルとミリィは震える。だがマラは落ち着いている。 「あなた方は悪いことをしているわけじゃないわ、むしろ保護されるべき立場なのよ」  そして、車は家につく。  同じ頃、その家の中では… 「うむ、そうか…丁重にお通しするように」  使用人達の報告を聞いたドゥークーは彼等を下がらせる。 「それにしても…驚いたぜ。ゼーラの大物が顔を揃えているとはな」 「ええ、パルパティーン議長にジェダイ党の面々、それにリヒテル元帥にアイザム文部科学大臣まで…。それだけCP9に危機意識を持っているということでしょうか?」 「どう思う?拳志郎さんよ」 「さあな…」  そう、このゲストルームというべき部屋にはパルパティーン議長やジェダイ党党首であるヨーダ導師や党員であるアナキン・スカイウォーカー、彼と妻のパドメ・アミダラとの双子の子供あるルークとレイア、ゼーラ空軍元帥であるリヒテル、ゼーラ文部科学大臣のアイザムというそうそうたる顔がいた。因みにルークは現在ゼーラ議会前議長のヨーダ導師のもとで実務経験を重ねているが、パルパティーン曰く「桑田福助の師匠だった相羽直人レベル」と評するほどだ。アナキン及びルークのアドバイスをしてきたのはオビ=ワン・ケノービといい、今はヨーダ導師の補佐官を務める。 「さて皆さん、後二人来ますのでそろそろ始めましょうか」 とドゥークーはその場にいた全員に声をかける。そこへ 「失礼致します、例の二人をお連れしました」 と使用人がメリルとミリィを連れて部屋に入ってくる。 「うむ、ご苦労。下がってよろしい。ああ、後で紅茶を用意してくれたまえ」 「かしこまりました」 と言って使用人は下がる。 「あ、あの…この方々は…」  戸惑う二人に 「ご心配なく、ゼーラの重鎮の方々です」 とタシギが近づいて声をかける。 「貴方は庶務課の!」 「この間はどうも」 「よう、保険会社の二人じゃねえか」 「課長さんもいらっしゃってたんですか!で、こちらの方は…?」 とミリィが拳志郎を指差す。 「ああ、あいつか。ジャーナリストさ、かなり名の知れたな」 と言ってスモーカーは拳志郎からもらった名刺を見せる。 「先輩!!」 「あの人が…あの」 「どうも初めまして」 と拳志郎は二人に挨拶する。 「ど、どうも…私はこういう者です」 とメリルは戸惑いながらも名刺を拳志郎に渡す。 「保険会社の方…何故貴方がたがここに?」 「それはこの私から説明しよう」 とドゥークーが割って入る。 「実はこの二人もかの会社を調べていてな、奴等に命を狙われていたわけなのだよ。それをいち早く知った我々『シス』は部下に命じて保護し、ここへ連れてきたわけだ」 「ほう、このお二人も…」 「ええ、私達はクラクラ病や薬害エニエスによる出費がひどくなっているのを懸念して極秘に調査することにしたんです」 「因みに私達、直属の上司に懸念を訴えたんですけど…怒鳴られました…『お前達の知ったことじゃない!!』って」 「なるほど…危機意識に欠けておられますね」 「というよりその上司、CP9の株を保有しているんです」 「つまり買収された…」 「そこまでは分かりかねますが…」 「君達の会社にも買収の手が回っているのかね?」 とリヒテルが話を聞きつけて近づいてくる。 「それは分かりませんが…」 「だが回っているとすれば大問題だ。これはまだ公にはしていないが君達には打ち明けよう。実は我が軍の将校にもあの会社の連中が会社の株で買収しているらしいのだ」 「本当ですか!?」 「まだ調査中だ。このことは『シス』に任せているがね」 「もしよろしければ今分かっている段階まで教えていただければ」 と拳志郎が頼む。 「いいだろう、君のところの『週刊北斗』は信頼できる。伯爵、頼めるかな」 「そうですな元帥」 「私からも一言いいかな」 と話の中に入ってきたパルパティーン。 「君達は奴等が議会も買収しようとしていたことは知っているだろう」 「ええ、ニュースで」 「俺は桑田氏から直接」 「うむ、お恥ずかしい限りだが私も奴等の口車に危うく乗ってしまうところであった。幸いにもその場にいたスカイウォーカー君に諌められたがね」 「ホントですよ議長。私とルークがその場にいなかったら被害が拡大するばかりかCP9の思うがままですよ」 「うむ…今後は気をつける」  そこへ 「失礼致します、紅茶をご用意いたしました」 と使用人がワゴンで紅茶を運んできた。 「うむ、ご苦労」 「それと伯爵様」 「何だ?」 「南光太郎様と秋月信彦様がお見えになっております」 「そうか、通すがよい」 「はい、かしこまりました」 「後は我々でやる」 「はい、ではあちらのお二人をご案内してまいります」 「うむ」  使用人は一旦下がると光太郎と信彦を連れてきた。 「え!?南さんに秋月さん…何故お二人とも…」 「やあ、どうもメリルさん」 「よう、お前達も来たのか」 「スモーカーさん達も来てましたか」 「ようこそ、我が屋敷へ」 とドゥークーが光太郎と信彦に挨拶する。 「今晩わ伯爵、例の証人の件は片付きました。後は」 「うむ、そうか。それは何よりである」 「それと暗殺者を捕らえました。尋問に関しては私達にお任せ願えますか?」 「よろしい、こちらもそちらの女性二人をつけていた男を一人捕らえたのでな」 「あ、あのう…一体どういうことですか?何故、伯爵と南さん達が…」  ミリィが恐る恐る尋ねる。そこへ 「俺にも話していただけませんか、あなた方の関係を」 と拳志郎も興味を示した。 「光太郎…」 「ああ、そろそろいいだろう。俺達の本当の素性を明かす時がきたようだ」 「ジ…GIN!?」 「あ、あなた方が…!?」 「騙して事にはなってしまうが潜入捜査だったんだ。そこのところは分かって欲しい」 「……」  光太郎の素性を聞いたメリルとミリィは絶句して黙ったままだった。 「しかし、なぜ君達がGINにいるんだ」  と拳志郎が尋ねる。 「俺達はイムソムニアに家族を奪われました。俺は天下航空機の墜落テロで両親を奪われ、信彦は父を失いました。ちなみに俺の養父です」 「ちなみに『ブラックサン』と名刺にあるが、一体…」 「これはGINでのコードネームです。ちなみに信彦はシャドームーンです」 「確か、デザイナーズチルドレンの研究に関与していた南正人・友子夫妻のことか」 「それもありますね。高野はデザイナーズチルドレンなんです」 「どういうことだ!?」 「それは私から説明致しましょう」 と一人の男が割って入ってくる。 「貴方は?」 「失礼しました、私は黒松英臣(コードネーム:ダロム、ゼーラ王立アカデミー医学部教授、GINの協力者)と申します。デザイナーズチルドレンとは遺伝子そのものを再構築し、いかなる生物の利点を取り入れた新人類のことなのです」 「それで…!!」 「秋月くんの父である総一郎くんもイムソムニアに命を狙われていましてね。そして11年前のイムソムニアによるテロで命を落としたのです…」 「俺は黒松さんたちにも助けられて、イムソムニアの悪事を知って、何とかしないとと思ったんです。俺達はだから立ち上がったんです」  信彦の父である総一郎は考古学者だった。大学時代の友人の南夫妻がイムソムニアに殺されたことを知り、光太郎を養子として引き取り、守り育ててきた。その時だ。 「俺達の出番はもうそろそろなのだ」 「サルサ!」  浅黒い体の青年が部屋の中に入ってくる。それと同時に赤毛の美人、長身の赤毛の青年、小柄な淑女が二人の女性を押し切るかのように入ってくる。 「チームワイルドハーフがこれからゼーラを中心に護衛を引き受けることになる。サルサ、自己紹介を!」 「葛城慶次郎なのだ。タケトからはサルサと呼ばれているのだ」 「ボク、相模蘭だよ。フクスケと同じハーフだよ」 「おいおい、俺はイギリス人のクオーターだがな」 「北原先輩、相変わらずですねぇ…」 「しょうがないわよ、杏子ちゃん」  苦笑いするのは北原美也と秋月杏子(信彦の妹、コードネーム:ビシュム)だ。杏子は光太郎を異性として強く意識しており、普段は上品だが仲間たちの前では活発で明るい性格になる。ちなみに信彦は紀田克美という大学時代の同級生がいて、二人がイムソムニアとの戦いに関わったことを知っても変わらない関係を続け、近いうちに婚約することになりそうだ。 「俺、佐久間赤道と言うんや。スモーカーはんの護衛を引き受けさせてもらいますわ」 「俺相手だと煙草臭くて大変だぜ」 「気ぃせえへん。高野CEOから注文付けられているんや」 「ミレイ、いいわよ」  サルサと会話をしていたショートヘアの女性がニコッと笑う。 「美也お姉ちゃんの妹の北原美玲よ。みんなからミレイって言われているの」 「これで、四人の護衛は決まったな」 「アニキ、後は連絡先も伝えておかないと」  健人に頷く男。 「俺もGIN所属だ。岩瀬寿文、元警察官だ。主にネロの護衛を担当することになった。何かあったら鞠愛さんのところに連絡を入れてくれないか」  そう言うと寿文はメールアドレスを入れる。妻の鞠愛は寿文たちの素性を知っており、支援を惜しまないが普段は天然ボケであるのが欠点だ。彼女はペットショップ『ルナ』を表向きは経営しているが実はそのバックヤードにGINゼーラ支部のバックアップ機能が隠されている。同様の仕組みは真雪の婚約者で外科医の田中吉康が経営している診療所にもある。 「と…とにかく一応はわかりました。私達二人は当面は安全だということですね」  それまで黙っていたメリルが口を開く。 「まあ、そういうことです」 「ところで…南さん。あの轢き逃げ事故の被害者は…」 「ああ、彼のことですか。彼は…亡くなりました」 「えっ!?」 「というのは表向きのことです。実は俺達の仲間が仮死状態にして安全な場所で保護しています。引き続き治療は行いますので回復するのは早いでしょう」 「そうですか、よかった」 「彼は母の手配で、安全な場所に移動しています。現在、死体を手配して偽葬式をとり行うことにしています。あ、彼が生きているということはあなた方も内密にお願いします」  アナキンの娘レイアが近づいてきてにこりとして言う。その時だ。キリッとした表情の男が入ってくる。  「あれだが、手配は完了した。後は整形手術で本人にでっち上げて、葬式を行うだけだ」  「流石じゃな、ハン・ソロ」  「いや、あんたほどじゃないぜ。あんたが偽葬式を行うアイデアを出してくれたからここまで俺は動けただけだ」  「後は『シス』の情報網で大々的にネロが死んだことを流すことにしよう」  ハン・ソロの言葉に続けるパルパティーン。パルパティーンはヨーダから議長職を引き継いだ後、その慎重な判断力で物事を確実に進めてきた。時には大胆な判断をするが、その判断をヨーダは評価すると同時に諌めることもある。そのことをパルパティーンは大切なことと知っているため、決して暴走することはない。 「何!?殿下が!?」  三度部屋に入ってきた使用人から耳打ちで報告を聞いたドゥークーは軽い驚きを発した。 「はい、何でもあちらにいらっしゃる霞様にご用件がございますそうで」 「うむ、分かった。私自ら出迎えよう」  彼はそう言うと使用人と共に部屋を出た…。 作者あとがき:今回の話はかなり長くなってしまうので前・後編の二編に分けさせていただきました。さて、ドゥークーの屋敷に向かった『殿下』は拳志郎に何の用があるのか?それと拳志郎やタシギ・スモーカーそれにネロを狙った暗殺者達の正体は…。それは次の後編をお楽しみに!! 今回使った作品 『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫   1983 『蒼天の拳』:(C)原哲夫  2001 『ONE PIECE』:(C)尾田栄一郎 1999 『仮面ライダーBLACK』:(C)石ノ森章太郎 1987 『スターウォーズ クローンウォーズ』:(C)ジョージ・ルーカス/ルーカスフィルムアニメーション 2008 『トライガン』:(C)内藤泰弘 1995 『WILD HALF』:(C)浅美裕子 1996